中学最後の地区大会。
去年は定員オーバーでこの大会に出られなかったけど、ついにチャンスがやってきた。
・・・んだけど、困ったことに1週間前から足首がなんとなく痛い。
ダッシュの練習とかしても 足の痛みは変わらなかった(良くも悪くもならなかった)から、
まぁいいか・・・ というわけでただいま3コース飛び込み台。
まさかこんな遅い自分でも2組目の比較的真ん中に近いコースに入れるなんて・・・正直思ってなかった。
(1組目が1番遅くて1<2<3・・・です。組の中でも5コースが1番速くて、5>4>6>3>7・・・だったはず。←9コースの場合。)
こないだの記録会のタイムは、県大会標準記録にギリギリ届かなかったけど、
大会のときは大体自己ベストが出せるから大丈夫。
・・・・・・じゃなかった。 油断してた。
泳いでる途中でその足の痛みがひどくなって 更にその近い場所までつっちゃって、
とてもキックが出来る状態じゃなかった。
元々プルが得意な方だからそれでゴリ押ししてゴールしたけど、ひとり抜かせただけでもちろん予選落ち。
決勝まで進出することなんて最初っから全く考えてなかったからそれはいいんだけど、
当然、 地区大会敗退。
「みんなに心配かけたくないから」って思って足のことは誰にも言わなかったから、
「なんで途中でバタ足やめちゃったの?」
「おまえ大会なめてるだろ」
「標準記録すれすれだったから手でも抜いた?」
だのと かなりキツーく言われちゃった。
けど、メドリレ選手じゃなかったから誰の足も引っぱってない(だろう)から、
それを言われたきり、そのことについては一切何も言われなかった。
そしたら他の3年生が全員県大会に進出しちゃうもんだから、本当にまいった。
しかも1週間放置した上に大会で全力出して無理したおかげで、
足首があんまり回せなくなっちゃった。・・・一応治る可能性は ないわけじゃないけど・・・低い、みたい。
日常生活にも少し支障が出る(以前ほど速く走れないから体育の成績がガタ落ち とか)だけでもまいるのに、
もう競泳選手やってけないなんてバッサリ言われたときは・・・・・・ どんなコトバよりもキツかった。
だけど、
水泳は、 続けたい な。
――それから大体1年弱のこと・・・
海猫商業高校・・・通称「ウミショー」 の1年7組(情報処理科)に、
は入学した。
「水泳部? ・・・に入るのか?」
「え、はい・・・ そのつもり ですが?」
こちらが聞き返したくなるような口調で の担任は言った。
「それだったら 3年6組の碇矢・・・もしくは3年7組の織塚に提出だ。・・・女子なら織塚の方だな」
「え、先生の方には出せない んですか?」
「いろいろ事情があるから・・・直接部長副部長に出した方が早い」
「そう・・・ですか」
とか言われてほいほい3年の階なんて行けるわけがないじゃないすか!!
と、内心ツッコミを入れながらも、は昼休みにひとりで教室を出た。
1年7組には 水泳部を希望する生徒がいなかったようだ。
階段の1番下の段で足を止めたは、壁から廊下の方を覗き込んだ。
廊下で喋っている生徒、走り回っている生徒もいるが・・・名前だけ聞いたところで 顔が分かるはずもない。
「あ、あの・・・」
と、の後ろから急に声がかかった。
道をふさいでいたのかもしれない、と慌てては手すり側に飛び退きながら謝った。
「あ、はい!? すんません!!(痛っ・・・)」
「いえ、気にしないでください ・・・・・・それより そこで何をしてるんですか?」
3年生は一番下の階。1〜2段上にいるはずなのに目の高さがと同じぐらいでデコ全開の女子。
よく見るとちょこっとアンテナが伸びている。
「(うっかり[ホントに高校生?]とか思っちゃったけど そう言うとかわいそうだよなー・・・)」
と思い、は言葉を飲み込みながら、肝心の質問に答え始めた。
「えっと・・・部活登録で3年生のところに申請しないといけなくて・・・」
「!? それってもしかしてもしかしなくてもマキオと同じ水泳部ですか!?」
興奮気味・・・というかまるで犬が喜んで尻尾を振ってるような感じの顔で、自称[マキオ]という女子は言った。
「もしかしなくても同じ水泳部でーす」
そしてそんな犬をなでるような声では答えた。
「で・・・・・・そのマキオてのが 名前・・・ですか?」
「はい!1年2組の、生田 蒔輝です! マキオって呼ん
「んじゃ、マッキーよろしく!」
「狽・えっ!? ・・・いやだからマキオって
「見た目的にはマキオよりマッキーのがぴったりかなーって・・・」
「・・・・・・」
「ちなみに自分 1年7組の
っす。改めてよろしく!」
「よ、よろしくです〜!」
結局その日の昼休みはあきらめ、2人は放課後直接プールに行ってみることにした。
(も生田も階段のところで一緒に怖じ気づいてた)
その道の途中。
「マッキーは水泳経験ある?」
「あ、いえ・・・ 実はプチカナヅチで・・・」
「・・・ってことは、泳げ ない?」
「はい・・・。だからマキオ、水泳部入って泳げるようになりたいんです!!」
「そっか〜、いいことだ!」
「 さんは?」
「え? ・・・一応、部活やってたけど」
「ホントですか!? じゃ、じゃあ泳げるんですねっ!?」
「うん、・・・まぁ」
「・・・・・・?」
どうしましたか?と言わんばかりにジッとを見る生田。
さすがのも、ここでは生田から目をそらして 困ったような顔をしている。
「でも、自分・・・マネージャー希望 っすよ?」
生田から目をそらしたまま、つぶやくようには言った。
「ぇえっ!? 泳がないんですか?」
「(何今の間・・・?) うん・・・」
「そっ・・・それはまた何故・・・!?」
[小動物]と例えるのがぴったりなぐらいころころ変わる生田の表情。
質問がそれじゃなければ、その状況を楽しんでたのに・・・
と邪なことを考えていたは 作り笑いをしながら、
「後で・・・ で、いいかな?」
と生田に言った。
当の彼女は その真意が分かっているのかいないのか、
「・・・? 分かりました! でも絶対聞いちゃいますよ!!」
と張り切っている。
「・・・・・・」
の作り笑いは結局引きつってしまった。
・・・生田はその様子に気付いていないようで 笑顔で彼女の手を引っぱった。
「わぁ・・・なんか男子が群がってますぅ・・・」
「うわー・・・」
とりあえずプールの近くまで来た2人。しかしいろいろな部活の男子生徒がフェンスにしがみついている。
「(競泳水着の女子みたさか・・・。でもきっと・・・スタイルいいんだろーなー・・・・・・)」
と再び邪なことを考えていたに
「・・・さん?」
「っはい!?」
「・・・・・・」
再び生田が声をかけた。
はよっぽど深いところまで何か考えていたらしい。
「え、?えーっと ・・・・・・ぁあっ!」
ごまかすように何を言おうか考えていたは、フェンスにしがみついていた男子生徒が騒ぎ出したことに気付き、指差した。
「「「静岡すわぁぁぁん!!」」」
「今日もかわいいよっ!」
「でかいっ!」
「・・・えっ、あ、あのっ・・・・・・」
男子生徒の体格のよさ・2人の背の低さが相まって、彼女たちの場所からではフェンスの向こうが全く見えない。
分かるのは、男子生徒が興奮するような スタイルのいい(もしくは胸が大きい)女子がいるであろうことだけ。
「マキオたちも前に行ってみましょう! 部長さんいるかもしれませんよ!!」
「そ、そうだね!行ってみよう!!」
というわけで生田とは男子生徒をかきわけて フェンスの目の前までたどりついた。
まだ4月後半。屋外プールで泳ぐにはまだまだ寒すぎる。
この時期学生はまだ冬服なのに、半そで半ズボンの男子(おそらくマネージャー)までいる。
「こぉら!他の部はあっち行けー!!」
と、そのマネージャーと思しき男子が フェンスの方に走ってきた。
男ばっかの集団の中に 頭ひとつふたつぶんぐらい小さい彼女たちが、果たして彼に見えているかどうか・・・
「うるせー沖浦! 俺たちにも見せろ〜!!」
「そーだそーだ!!」
「・・・すんごい勢いですね・・・」
「水着女子見たさに この人たちは
と、2人が口々に言っていたその時――
ガシャッ
「うがっ!?」
「ごめんなさーい・・・・・・練習のジャマなの」
がいた辺り。高めの蹴りで足の指はフェンスをつかんでいる。
いかにも[機嫌が悪そう]な顔の、競泳水着の・・・女子。
先ほど男子生徒が騒いでいたその女子生徒とはどうやら違うらしい。
「うわー!!番長キター!!」
「逃げろーっ!!」
その集団が逃げてく様子を、は下から見ていた・・・。
「おっ・・・織塚先輩!」
「なによ 沖浦」
「「部長じゃなくて 番長?」」
生田との声が重なった。ただしは生田がいるところから目をそらしている。
なぜなら、
そのポジションからだと 丸見えだからだ。(何がとは聞かないで
「先輩のまん前にいた女の子が鼻血出して倒れてますよ!?」
「えっ?」
もちろん、鼻血を出して倒れているのは。蹴った女子生徒(織塚)の足がまともに当たって倒れていた。
「あ、あのっ!私たち水泳部の入部申請を出しに来た・・・んです ・・・・・・けど・・・」
と、フェンス越しに話しかける生田の声はだんだんか細くなっていくばかり。
しばらくして、がよっこいしょ・・・と言わんばかりの起き上がり方をして地面に座った。
「でもマッキー背ぇ低くてよかったね。頭一個分の違いは恐ろしいよ・・・」
「「「・・・・・・」」」
今年ウミショー水泳部に入部したのは、生田(マキオ)・安(ちぐ)・小柴(シバコ)・戸部・の5人。
「はい、じゃあ一人ずつ専門言ってって」
彼ら1年生を歓迎はしてるだろうけど、腰に手を当てやや前かがみになってるのは
この部活の部長・・・ではなく副部長の織塚。
「マキオは泳げない です・・・」
「ボキも・・・」
「・・・・・・じゃあ、沖浦。泳法指導よろしく」
「あ、はい」
それから安・柴田の2人も自己紹介を終え・・・
「あなたは? ・・・・・・ホントごめんなさいねっ」
「あ、いえ、大丈夫 です・・・」
「って、あなた水着忘れたの?」
「いえ・・・マネージャー志願なんです けど・・・」
「あら?そうなの!? ・・・・・・・まさかコイツみたいに泳げないとか言わないでしょうね」
「そこで俺を出さないでくださいよ先輩・・・」
「い、言いません・・・。小中と部活はやってました けど・・・」
「そう ・・・・・・ん? けど? けど って何よ?・・・それなら泳いでほしいんだけど」
に限ってやたら畳み掛けるように質問してくる織塚。
少し困った顔をしていたは、思いっきり深呼吸をした。
「今は、泳げません」
「「「・・・?」」」
いきなりシリアスな空気になったことを感じた織塚・沖浦・生田の3人は怪訝そうな顔を浮かべた。
「・・・泳げないわけじゃないんすけど、泳げないんです ・・・・・・すみません」
そう言うの視線は、彼らではなく・・・地面のある1点を見つめている。
「――分かったわ。じゃ、沖浦・・・この子よろしく」
小さくため息をつくように織塚。これ以上は聞かないことにしたらしい。
「・・・?はい。 んじゃ、みんなそれぞれ着替えてきてー。女子の更衣室はここで、男子のは――」
と、沖浦の指示で1年生は動いていった。
織塚もゴーグルを目に当てて、練習を再開しようとしていた・・・が、
ふと、何か理由があって泳げないと言ったの背中に視線を移す。
「(・・・? あの子・・・)」
「(――あぁ、そういうことね。・・・だったら沖浦に出来ないこと やってもらおうかしら・・・)」
の歩き方――片足をかばうようなその歩き方――は、これまで誰にも悟られたことはない。いや、なかった。
「ちょっと沖浦ー!」
「え、はい?」
装着したゴーグルを外し、織塚は沖浦と新しいマネージャー・・・ひねくれ(?)クロール選手を呼び出した。
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