「突然ですがヅカセンパイ!勝負してくださいませんか!?」
「「「「「はぁっ!?」」」」」
――水泳っぽい100のお題 [023. 200m自由形]
部活も終わりかけの夕暮れ。
突拍子もないの提案に 誰もが絶句・・・というか驚きの声をあげた。
「え、ちゃんて泳げないんじゃなかったの?」とか、
「相手はインハイ選手なのにいきなり何を・・・」とか、
ウミショー水泳部は大騒ぎし始めた。(一部除いて)
「・・・・・・ちょっとこっち来なさいっ」
「え、わ・・・っ!? いだだだだだっ!!けずっ・・・削られるぅっ!!」
勝負に乗るのか乗らないのかはともかくとして、織塚はを部室の陰まで 文字通り引きずって行った。
部員たちは[唯一織塚先輩に蹴られる女子]を哀れむような目で見ていた。
「大体さん、あなたは・・・・・・その、・・・足が悪くて競泳できないんでしょ?」
「え・・・・・・ちょっ、なんでそれ知ってるんすか!?」
「歩き方見てれば分かるわよ、それぐらい・・・」
「・・・・・・他の人にも バレてるのでしょうか・・・」
「あたしだって気付いたのはたまたまだったから・・・普通は分からないわよ」
「よかった・・・」
急に縮こまったに、織塚は小さくため息をついた。
は片足の足首をあまり動かすことができない。しかも本人はそれを周りに悟られないようにしている。
そこまで見抜いていた織塚は、誰かに盗み聞かれないように小声で話していた。
「で、なんで急にあんなこと言い出したのよ?」
「・・・・・・ヅカセンパイって100と200でしたよね?」
「え、ええ・・・そうよ」
「自分、200と400やってたんすよ〜」
「あら、そうなの」
「あむろセンパイは50と100だからちょっと違うだろうし・・・」
「・・・・・・だから、あたしなの?」
「そうっす! 1回でもいいからもんのすごい速い選手と競走したいんすよ!!」
「・・・・・・」
「可愛い後輩の夢をかなえるためにも 1回付き合ってやってくだ
「まずは養生することが夢への第一歩じゃないのかしら〜?」
「っあ゛〜〜〜!! そ、そうじゃなくて…っ!」
織塚の足グリ(背中)に呻きながら、は何かを否定した。
「・・・・・・何がそうじゃないのよ」
その言葉に織塚は足グリをやめて 今度は腰に手を当てて前かがみ・・・いつものポーズをとった。
相当強烈な足グリだったのか、ひーひー言いながらはとりあえず起き上がって地面に座った。
「プルだけで、タイム・・・計るんです」
「はぁ? 何言って
「ターンのときは片足で壁を蹴るしかないですが、足を全く使わずに泳いでみようと思って・・・」
「・・・・・・プルには 自信あるの?」
「キックよりは・・・一応」
少しの間をあけて、織塚が口を開いた。
「やるなら早く着替えてきなさいよ」
「付き合って くださるんすか!?」
「あなたがどうしても っていうなら。・・・それに、長いこと部活をやっていたあなたの泳ぎにも興味あるし」
「あっ・・・! ありがとうございます!!」
このときは、400mの方には全く自信がない ということをすっかり伝え忘れていた。
「――というわけで、沖浦タイムよろしく」
「あ、はい・・・」
「2人とも計ってくださいね、センパイ!」
「あ、うん・・・?」
事情は説明せず、ただ最初に宣言したとおり[織塚ととの勝負]という話になっている。
「なんだか分からないけど泳がないって言ってたさんが泳ぐんですね・・・!」
まるで自分が泳ぐような勢いでビート板を掲げて興奮している生田。
「あむろも泳ぐー!」
「「ぇえっ!?」」
急な飛び入りに驚いた2人。但し相手が蜷川となると、想定の範囲内だろう。
「ま、まぁいいんじゃないの? ねぇ、さん」
「そ、そう・・・っすね。自分、あむろセンパイと逆の泳ぎ方だし・・・参考になりそうな・・・」
「あむろー、いいけどこれ200mだぞー?」
の言った[逆の泳ぎ方]のことを考えながら 沖浦は飛び込み台に立つ蜷川の背中に声をかけた。
「200m?」
「そ。だから4往復・・・7回ターンするのよ」
「わかった〜!」
蜷川のつぶやきに答えたのは織塚。
その横ではが何か考えている。
「(うわー・・・中学んときは長水路だったから数え間違えそうだな・・・しかもターン多いし)」
「んじゃ始めまーす ・・・・・・用意、」
ピーッ
だけ少し遅れたスタート。反射神経はあまりよくないらしい。
「(・・・っ、最初に浮くときに やっぱ足が使えないのはキツいなぁ・・・)」
と、は離れたコースにいる蜷川の足をコースロープ越しに見た。
「(まだあむろセンパイが来て少ししか経ってないけど・・・ありゃやっぱ人魚だ・・・)」
片や隣のコースの織塚とは 20m届くか届かないかのあたりですれ違った。
「(手だけと足だけ って・・・! 負けられないわ!!)」
乗り気ではなかった織塚も、なんだかんだで気合いが入っているようだ。
「(それにしても蜷川さんは相変わらず速いわ・・・さすがどこでも泳いでいるだけのことはあるわね・・・)」
「うっうっ・・・結局は泳げてるんだな。スタイルもなかなか・・・」
はぁはぁとあえぎ声が聞こえそうなトーンで武田。
「おいおい・・・。 でも、さん・・・足使ってないように見えるけど」
あむろと逆 ってのはこれのことだったのか・・・ と沖浦は納得したようにつぶやいた。
「ああっ・・・!マキオもあれぐらい泳げるようになりたいですぅ〜」
ビート板を抱きながら生田は目を輝かせながら3人を見ていた。
彼女たちはすでに100m経過・・・・・・していない。
ひとり、だけまだターンをしていなかった。
「(2人とも全国レベルだからな・・・さんには少し無理があったんじゃ・・・)」
タイムは現在1分15秒を経過。
織塚も蜷川もとっくに折り返して中間地点にいる。
「(・・・・・・後半戦、と)」
一方どんどん差が開いているには、何の焦りも苛立ちもなかった。
「(これでもし30秒切ってたら・・・・・・なんて、こんなレベルじゃヅカセンパイなら切り捨てるだろうな)」
ゴーグル越しに は少し目を細めた。
彼女のゴーグルはミラータイプなので 仮に織塚・蜷川が近くを泳いでいたとしても、表情は見えない。
「(さて、もうすぐ残り50m・・・・・・ありゃ、もう2人とも見えねぇや)」
それでもはペースをあげはじめた。
「お、・・・織塚先輩が速くなり始めた!」
いつのまにか全員で大会のときのようなテンションで3人を見守っていた。
「いや・・・!さんも追い上げてる!」
ふと、沖浦はストップウォッチを見た。
「(・・・1分57・・・58・・・・・・で、先輩はラスト25m。さんは・・・25mと まだ半分以上・・・?)」
バシャッ
「織塚センパイゴールですぅ!!」
「さすがインハイ選手!!」
まんざらでもなさそうに、織塚はプールからあがった。
「で、タイムは?」
「・・・えーっと、2分12秒 です」
「・・・・・・」
ま、いつもどおりか・・・ と織塚がつぶやいたところで、蜷川もゴール。
「ぷはー!長かった〜。 でも楽しかったねー!」
「え、ええ・・・? 沖浦、蜷川さんのタイムは?」
「・・・・・・2分16秒 です」
「・・・・・・」
「さん・・・」
「・・・・・・2分19秒」
が最後のターンをした瞬間のタイムを織塚は見た。
「す・・・すすすんごい速さですよ!!」
目を輝かせながら、生田。ついにはビート板を振り回す始末。
「「え?」」
生田の声のトーンがいつもと違うことに気付いた2人は さっとプールの方を向いた。
「「・・・!?」」
バシャンッ
「・・・・・・っ」
普段の彼女とは思えない険しい表情と鋭い呼気(=小さなため息)に息をのみながら、織塚たちはストップウォッチを確認した。
「・・・・・・2分32秒。まさか最後の25mを13秒で来るとはね」
「「「・・・・・・」」」
腕をかくだけで泳いできたタイムとは思えないその文字盤に、全員が唖然となった。
「もう1回、ちょっと来てもらえる?」
フェンスにひっかけてあったタオルで顔を拭きながら、織塚はを再び部室の陰へと手招いた。
「・・・? はい」
「・・・結局あなたの真意は何だったの?」
「え、だから夢をかなえる・・・
「はぁ!? 大会出たいとかそういうんじゃなくて!?」
「そういうんじゃないです。 ・・・・・・まぁ、それもないこともないっすけど」
「ないこともない わけね?」
「げっ!? 聞こえた・・・」
の本音を聞き漏らさなかった織塚は なにかを企むような笑顔になった。
「じゃあ今度の三校戦、あなた200と400の自由形で出場ね」
「ぇえ!? なに言ってんすかセンパイ!?」
の驚愕の声がよっぽど大きかったようで、部員たちは彼女たちが話している陰まで近づいた。
「それはこっちのセリフよ。 ・・・あなたの夢はあたしが叶えてやったんだから、あたしの言う事聞きなさいよ」
「・・・交換条件 だったんすか?」
「もし3分を切ってたら三校戦に出そう って決めてたの。そのタイムならひとりふたりぐらい抜かせるんじゃない?」
「・・・・・・」
三校戦は公式戦と違い、標準記録が設けられていない。(コース設定の都合上タイムのエントリーはする)
出場する人数もそんなに多くないので、せいぜい1種目に1〜2組(10人程度)が集まるぐらい。
だから、公式戦にまだ出場できない選手の見せ場でもあり、公式戦に出場する選手にとっても腕鳴らしになる。
「ていうか! 三校戦の総合成績で脱3位することがとりあえず今のあたしの目標なの!!」
「え、そうなんすか」
昨年のインターハイに出場した実力派スイマーが、今目の前の切実な目標を掲げたことにはあっけにとられた。
あっけにとられたと同時に 笑いがこみ上げてきたが、何をされるか分からないので一生懸命こらえた。
「だからうちの総合力アップのためにも泳ぎなさい!」
「じゃ、じゃあ・・・三校戦 だけなら」
「決まりね? 決まりね!? ・・・そうと決まったら明日からあなたも早速練習よ!!」
「「「・・・・・・」」」
本人も本人だが、物陰から2人の会話を聞いていた沖浦はじめ水泳部員たちは 開いた口がふさがらなさそうだった。
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そしてこの後いろんな部員に「どうしてマネージャーなの?」って問い詰められます。
マジメじゃやっぱウミショーらしくないので 番長に暴走(?)してもらいました。
てか短水路で200m泳ぐときは4往復ですよね!? ・・・はずかしい誤植してました・・・lllorzlll
(07.9.8)
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