「第2コース、海猫商業 さん」

・・・・・・なんでこんなことになってんだろ。








   ――水泳っぽい100のお題 [024. 400m自由形]




先日、ひょんなことからヅカセンパイ(と あむろセンパイ)と競走・・・とは呼べないけどそんなようなことをして、
なんだかんだで三校戦にだけは かりだされた。

かりだされただけならまだいいよ? ちょっと・・・出てみたかったし。
だけど・・・


全くといっていいほど練習してない400にまでエントリーされてたなんてなぁ・・・。



そういえばヅカセンパイ、あの勝負のあとなんて言ってたっけ・・・
[じゃあ今度の三校戦、あなた200と400の自由形で出場ね]

[200と400の自由形で出場ね]


[200と400の自由形で]




・・・・・・  お わ っ た…!!


「あなた自分で言ってたじゃない!? 200と400って!!」
「ぇえ!? でもまさか400までかりだされてたなんて・・・」
「どっちもあなたの専門なんでしょ!?」
「よ・・・400は一応泳ぎましたがホントに数ヶ月の専門だったんで全然なんすよ!」
「なんであのときそれ言わなかったのよぉ!?」
「ひぃぁああああ! すんませんすんませんっ!!」


――そういう経緯で今本部のテントに背中向けてるんだけど、
記録と勝利のためなら手段を選ばない人の怖さを今更ながら思い知ったよ自分。


ちゃん、がんばろうね!」
「え、あ・・・はい!」
隣・・・3コースにいるのは ホントなら800がメインの中村センパイ。
なんで隣(速さが2つしか離れてない)かって・・・
多分エントリーのときに ヅカセンパイが200mの記録を2倍してちょっと遅めに修正して提出したんだと思う・・・。


ピッ ピッ ピッ    ……ピーッ!

まいったなぁ・・・。
てことは5分10秒・・・とかそれぐらい?


ム・・・  ムリ!!



「用意・・・」

ピッ!


うわー・・・始まっちゃった・・・。
・・・1年弱 ぶり ・・・の大会 。


・・・っ!なんか足ぴくっとした!?
つりませんようにつりませんようにつりませんように!!






「あれだけ喚いてたのに・・・・・・そこそこついてってるじゃない」
ウミショーテントから 織塚がつぶやいた。
さんって あんなに泳げたんですね・・・!! マキオ憧れですぅ!」
先ほど特別にビート板で泳いで少しヘコんでいたはずの生田が、復活していた。
大会の運営に回っている沖浦も ストップウォッチを片手に、あの泳ぎを見ているだろう。

ウミショー水泳部からはこの種目に2人の選手が出ている。
テントでは女子部員を中心に その2人を応援する声が大きくなっている。

ところが他のテントは 2コースの選手がバタ足を使っていないだけで大騒ぎしていた。
たかが3校が集まっただけでこの騒ぎ。
ウミショー水泳部でも称されている例の[人魚泳ぎ]がこの場でお披露目されれば もっと騒ぐだろう。
・・・もちろん、当の本人たちはそんなこと全く気にしない。

「(本気で泳ぐさんを初めて外から見たけど・・・ 手だけで並みに泳げる秘密はどこにあるのかしら・・・)」
とても速い選手ではない。
聞けば、中学の県大会にも出場できなかった どこにでもいる競泳選手。

ただし、[実はドクターストップがかかっている]・・・というハンデがある。

「(そのハンデを乗り越える強さ・・・? いや、あの子からそういうモノは感じ取れないわ)」
一緒に泳いだとき、最初から最後まで(多分) へらへらしてて、[まぁいっかー]みたいな感じで、
じゃあ何が・・・?

そこまで織塚が長考していたところで、
ちゃんたのしそーに泳いでるね〜!」
応援の中に交じった 蜷川の声が聞こえた。
誰に向けられた言葉かは分からないが、その言葉で 織塚は先ほどまでの考えがどうでもよくなったように感じた。






「(にひゃくごじゅ・・・っ!)」

なんでここらへんの高校には長水路プールがないのぉおーーー!!?
長距離選手に優しくないっ! (でも400は中距離なんだけど)
ってか200泳ぐだけでも数え間違えそうなのにその倍なん


・・・一瞬 体の内側を冷たいモノが走った 気がした。



壁を蹴ったときに 蹴った側の足に・・・それほど大きくはないけど 変な衝撃。
片足骨折した人が骨折してない方の足まで痛める話がよくあるとおり、
これも同じ原理・・・

まいったなぁ・・・
最近いきなり泳ぎ始めたせいか、ついにツケがまわってきやがった・・・!


遠く・・・7コースあたりの選手の頭がここからチラっと見える ・・・ってことは、
大してスピードは変わってなさそう ・・・とみていいかな。

どうする・・・ まだあと150もある・・・



「(にひゃく・・・ななじゅーごっ!)」

そういえば必ずしもターンはクイックをやれ って決まってるわけじゃ・・・ない よな?
あむろセンパイの泳ぎが公式でどう見られるかがまだ分かんないけど・・・


「(さーんびゃーっく!)」
あ・・・結局ダメだ。変わらない。






「あれ、さんクイックターンしなくなっちゃいましたね」
彼女の変化にまず気付いたのは生田。・・・ただそれ以上のことまで気付いていない。気付くはずがない。
「まぁ、慣れてないらしいから・・・疲れてきたんじゃない?」
結局じっとの泳ぎを見続けている織塚。かろうじて耳に入った生田のつぶやきには 上の空で答えた。
もうひとりのウミショー選手である中村からは すでに体ひとつ分離されている。
「そうですかー? あんまり遅くなってるようには見えませんが・・・」
「・・・・・・」
足が、変に浮いたり沈んだりしている。
最初は少し沈んだ、自然な状態を保っていたはずが なんだかおかしい。
ただ、それは 最初からずっと追っていた者にしか分からないほど、微かな変化。
「(あのままではマズいわ・・・ 下手に力を入れたら――)」

「(足を・・・つるかもしれない)」
ストップウォッチを片手に 本部に背を向けた沖浦も同じことを考えていた。
同じ学校の選手と重ならないように 運営は配置されているが、
沖浦は ちらちらとウミショー選手の泳ぐ 2・3コースを見ていた。
「(なんでプルしかやらないかは分からないけど・・・ 足の動きがなんだか・・・)」
4コースを泳ぐ選手が もうすぐゴールをする。
さすが1番の台を取っているだけのことはあって 僅差ではあるが他を近づけまいと一気にペースが上がった。






しまったー・・・

結局足つった


まぁまだ使えない方の足だったのが幸いかな。
あと40mちょい・・・ おっ、4コースの人とすれ違った!速いな〜・・・

中村センパイもずいぶん遠くなっちゃった・・・


今何位ぐらいかなぁ・・・?
でも見た感じ、ヅカセンパイの言う[総合力アップ]にはなれない な。
脅されても足グリされてももうなんでもいいから 400だけはもう勘弁だな・・・さすがに長い。
呼吸のときの体のひねり方がだんだん大きくなってきてて、めまいがし始めてきた・・・。

でもビリでゴールしたくはないなー・・・やっぱ。



「(らーすと にじゅーごめーとる!!)」
よっしゃ!ラスト!!あんときみたいに頑張って追い上げてみ


「・・・っ!!」

うわー・・・

ついに反対まで足つったー。


まぁ最後のターンした後だったのが幸い かな。
もともとバタ足やらないって決め込んでるからいいけど・・・
これがフツーの選手だったらパニクってたんだろうなー。

あ、なんかそう思うと自分って・・・・・・思ったより水泳の運はあるかも。






他校のテントがざわついている。
2コースの最後の追い上げがありえないスピードだからだ。
1回、学校のプールで見ていたウミショー部員たちでさえも 驚いている。

のミラーゴーグルから表情は見えないが、
呼吸をするたびに歯を食いしばっているような口の動きをしている・・・ように見える。

「ひとり・・・! またひとりと抜いてますぅ!!」
学校から持参してきたビート板を振り回しながら 生田は叫んだ。
「す・・・すごっ」
「わー!がんばれがんばれ〜!!」
各々の反応(声援)を見せる中、再び織塚は難しい顔をしていた。




結果、は中村のすぐ後の5位でゴールした。

ちゃんすごーい!」
「え、そ・・・そんな〜」
中村の言葉に照れながら はなんだか小刻みに跳ねている。
結局2人とも県大会の標準記録は突破していないようだが、満足した表情を見せている。
「最後すごかったよ〜!」
そういいながら中村はプールからあがった。
「え、あ・・・ありがとございます〜」
まるでトイレでもガマンしているかのような動きの
プールの縁に手を伸ばすところまではいいが・・・


「センパイ・・・」
「?」

「たすけてください・・・」
はゴーグルを外したその涙目で 必死に訴えている。
一瞬何のことかを考えた中村は、彼女が伸ばしているその腕に気付いた。

「・・・・・・ ちょ、ちょっと待っててね!他の子呼んでくるから・・・っ」






「結局他校に恥かきいっただけじゃないのー!!」

「なんで自分にからむんすかー!?」
三校戦の帰り道。
特別許可でビート板で泳いだこともある。
まさかの泳法違反で失格になったこともある。
それ以上に、
大勢に引っぱり上げられてようやくプールからあがるという失態が特に大きい。

「自分も最後の追い上げはうまくいったと思ったんすよ〜・・・でもあんな大げさになるなんて」
「・・・・・・」


そばで蜷川が沖浦に[楽しかったね〜!]と話しかけている様子に、織塚は更にため息をついた。
彼女にとって想定内であって想定外であったのは、今年も三校戦は総合成績ビリで終わったことである。










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結局主人公さんは「泳ぎたいから泳いでる」わけで、
「その結果は後からついてくるだけ」としか考えてない・・・・・・ことになってます。
ていうか!書き終わって見返したら 田倉高プールって6コースしかないじゃん!!(滝汗



(07.9.8)
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