実力派スイマーのタイムが、最近縮み悩んでいる。
水泳にスランプなんてモノはないだろうけど・・・とは思いつつも、2人のマネージャーは心配していた。
――水泳っぽい100のお題 [046. チューブ]
「うーん、ヅカセンパイ調子イマイチっすねぇ・・・」
「・・・うん」
パシャッ
「何秒?」
記録と勝利のためには手段を選ばない ・・・と周りが評するとおり、
息を整えることもせず、織塚はストップウォッチを持っている沖浦に聞いた。
「1分05秒 です」
沖浦の即答も即答だが、
自己ベストより大幅に遅れているそのタイムに 織塚は舌打ちともため息ともつかない表情で顔をそらした。
100m自由形で1分より遅いタイムでは、インターハイには確実に出場できない。
「関東大会まであと10日だってのに調子イマイチね・・・これじゃ南条に負けちゃうわ」
昨年の関東ランキング(=関東大会)では 100・200とも自由形の1位を四宮の南条に取られている。
つまり今の彼女の目標は南条より速く泳ぐことであって、それ以上でもそれ以下でもない。
「あ、そだ・・・かなめセンパイ」
「?」
「確か、こないだ学校の方からプールの水質調査頼まれてましたよね?」
「・・・・・・あー、そういえば。さん、お願いしていい?」
「まっかせてください! ・・・・・・って、倉庫つぶれちゃったから道具ないんすよ ね・・・」
「そっか・・・・・・でも確か・・・生物室とかにあったと思うよ」
「そいえば確かに! ・・・あざっす!!」
そういうと は元気に走っていった。
「織塚先輩に言うのもなんだと思うんですけど・・・さんの歩き方って クセがありますね」
複雑な表情のままプールから上がった織塚の表情が更に複雑になった。
「え? ・・・・・・え、ええ、そう だったかしらね?」
「?」
季節は夏本番。1年生が入部してすでに3ヶ月近く経つというのに、未だにの足の話は秘密にされている。
「そんなことより記録よ記録! 短期間でレベルアップできるトレーニングとかないかしら・・・」
「そうですねぇ・・・ん?」
「悩める子羊たちよ・・・」
「なっ・・・なんですか部長、ローブ姿で・・・」
突然プールに現れたのは、全身を白いローブで覆った碇矢だった。
しかも先ほどまでの沖浦と織塚のやり取りでも聞いていたかのように、次の言葉をつなげた。
「どうやら練習不足で悩んでいるようだねぇ!!」
「えっ・・・(図星・・・) な、なにかいい案でもあるわけ?」
と、織塚は腰に手を当てて少し前かがみになる例のポーズで 歩いてきた碇矢と向き合った。
「そういうことだと思って考えてきたんだぜ」
そう言うと碇矢は どこからか紙を取り出した。
「現実的にできそうな案を4つ」
1.時間を止める
2.過去にワープ
3.ドーピング
4.秘密兵器でライバルに差をつけろ
とても現実的には見えそうもないが・・・
「ん? なんですその4番目の秘密兵器 って」
とりあえず全て目を通した沖浦は 4番目の現実的(?)な項目に気付いた。
「はぁ?そんなものあるの?」
「へっへっへ・・・」
と、例のローブを脱いだ。
「コレさ!!」
碇矢が着ているのはいつものビキニパンツと全く逆の 全身(頭まで)を覆った水着。
胸の辺りに[MORO1]と書いてあるのと腰の操作パネルのようなものがついたベルト以外は どうやら強化ラバーでできているようだ。
更に腕と胴体・両足がラバーでつながっている。その格好で泳ぐとなると水の抵抗はかなりのものになりそうだ。
「モロボシスポーツと共同開発した、次世代パワードスイムスーツMORO1だよ!!」
「セーンパーイ!道具ありま ・・・・・・した?」
再び元気よく走ってきたは、一瞬碇矢の姿を視界に入れたとたん、危うく道具を落としそうになった。
「あ、・・・おかえり、 ・・・さん」
の声に振り向いた部員たちも 碇矢の格好にはヒいている・・・
「なっ・・・なんかすごいです!」
「強そう!!」
生田と蜷川の2人を除いて。
「いっ・・・イカマサセンパイ・・・ な、ななんすか それ・・・」
「モロボシスポーツと共同開発した、次世代パワードスイムスーツMORO1だよ!!」
先ほど部員たちに言ったセリフと一字一句間違えず叫ぶと、碇矢は真ん中にあるボタンに手を伸ばした。
さすがのも引き気味で、作り笑いで[そう ですか・・・]とつぶやきながらプールの水が出ている縁まで歩いていった。
「いくぜ! スイッチオン!!」
操作パネルのボタンを押すと、今年の西暦と共に[GO!]というサインが出た。
・・・と、
全身18か所にあるらしい電気的筋肉刺激(EMS)がビクッ・・・ビクッ・・・と動き始めた。
例の2人を除いて、全員がドン引きした状況の中、
「みんな見るがいい・・・このスーツの・・・」
碇矢は飛び込み台に立った。どうやらその格好で泳ぎ始めるらしい。
「力を!!」
ドポォッ
「「ふびゃほ!!?」」
結局MORO1の操作パネルのせいで感電。
幸いにも被害者は[自業自得]な碇矢だけで済ん・・・
ドポッ
「アホか・・・ ん?」
そんな碇矢にボソっとツッコんだのは織塚。だが語尾があがっている。
「い、今誰かプールに落ちなかった!?」
その音にまず気付いた中村が 6コース側のプールサイドから走ってきた。(碇矢が飛び込んだのは5コース)
「そういわれてみると・・・さっきもイカマサ以外の叫び声が聞こえたような・・・」
と、部員たちでプールの周りを歩き回りはじめた。
「・・・・・・ぁあっ!?」
「誰だか分かったの?沖浦!?」
「ほ・・・ほ ほほら、これ!」
「え?」
沖浦が指さした先に 白い布のような物体が浮かんでいた。
時折ぽこっ・・・ぽこっ ・・・と気泡が出ているものの それは動こうとしていない。
「ちょっ・・・これもしかしてさん!?」
白い布の正体は、の着ていたTシャツだった。
先ほど生物室から持ってきた観察器具と、水を入れようと沈めたビーカーが プールの水底に落ちていること・・・
それが ここにいたのが彼女であるという、動かぬ証拠である。
「ゴムチューブ・・・づがうの って・・・・・・どう っか?」
結局は 部員たちに助けられ、ろれつが回らない状態にはあるが大したことにはならなかった。
「・・・ああ、それか!」
「あっ! それよさそうねぇ!!」
仰向けに倒れたままのは、チューブを腰に巻いて抵抗をつけたり速い水の流れの中を泳いだりする練習を提案した。
但しこの水泳部にはそれらしきものがない。
「ホラ!イカマサ! あんた責任とってチューブ買ってきなさい!」
できるだけ金使わないでね と付け加えて 織塚は碇矢にゴムチューブを買いに行かせようとした。
しびれが残っていると思われる碇矢は まかしぇろぃ・・・とつぶやきながらMORO1のままふらふら歩き出してしまった。
結局碇矢が仕入れてきたチューブ(どこで買ったというか拾った(?)ものなのか、だいぶ使い古されているようだ・・・)は
腰やら胸やら首やらに巻き とりあえず関東大会出場メンバーだけの練習に使われた。
(胸やら首やらに巻いたものは当然直したが(誰がとはもう言わない
「じゃ、用意できた人から順次3往復。 沖浦、合図」
という織塚の声を合図に、関東大会出場メンバーが次々にプールに入った。
チューブを飛び込み台――背泳選手が使う手すり――に結びつける関係で、1コースに1人しか入れない。
じりじりと照りつける太陽に当てられ だんだん乾いて(というか干からびて)きたが、沖浦の笛の合図で起き上がった。
「お、さっそくやってますねー」
「っわ!? さん・・・いつの間に・・・」
「・・・・・・ところでこのチューブ、どっから仕入れてきたんすか?」
「さぁ・・・部長が(織塚先輩に言われて)持ってきたみたいなんだけどどこからかまでは」
「そーっすかぁ」
「わー!すごい伸びてきます〜!」
片やチューブを[上級者の証ですね!]と崇めていた生田は 織塚が泳いでいる2コースの前ではしゃいでいた。
「遠くへ行くほど負荷がかかる ってわけだ」
「あれ、このチューブ・・・ちょっと短くないっすか?」
「うーん、・・・ま、しょうがないよ。安く仕入れてきたらしいし」
沖浦とが話していた通り、1番にスタートした織塚は ターンギリギリのところで立ち上がった。
一息つくかつかないかのところでスタートしだそうとしたところで・・・
「あむろセンパイがんばってますねぇ」
「・・・・・・」
例の人魚泳ぎで蜷川は一生懸命泳ぎ続けていた。
もう前には進んでいない。
ギ ギギ ギッ ・・・と3コースの手すりかチューブかどちらか(あるいはどちらとも)嫌な音を立てている。
「あなたもう前に進んでないわよ・・・ ムリしなくていいんだから」
2コースのチューブは多少引っぱられてる感じがあるもののそんなに伸びきってはいない。
但し隣の3コースは チューブがほどけるか蜷川が力尽きるか・・・はたまたチューブがちぎれるかを待つしかない状態にある。
「ちょっときいてるの!? 蜷川さん!」
んがくっ
「「あっ、力尽き
グンッ
「わあっ!?」
「えっえ!?」
「ひっ・・・引っぱられて戻ってきたぁ!!」
よっぽどチューブを引っぱったせいか、半分・・・いや、ほとんど水から浮いた状態で蜷川が引っぱられて戻ってきた。
「わー止まらない〜」
当の本人は驚いているもののあまり慌ててはいない。
「・・・止める てか、もう・・・誰か人をぶつけるしかないんじゃないんすか・・・?」
「「・・・・・・」」
あまりにも他人事のようなそっけないに、沖浦と生田は絶句したと同時に・・・2人の意見は一致した。
「さんっ! もう1回落ちて!!」
「はい?」
「そ・・・そそそうですよ! さんひとりの犠牲なら ・・・あじゃなくて、さんじゃなきゃできないですよ!?きっと!!」
「今 ギセイとか聞こえたんすけど・・・」
そう言っている間にも 蜷川はどんどん壁との距離を縮めている。
「ぶっ・・・ぶつかりますぅ!!!」
「ちょっとだれか止めなさいよぉ!!!」
生田だけでなく、遠く反対側からも織塚の叫びが聞こえてきた。
「――っ悪ィ!!」
「へ? ・・・あっ・・・・・・!?」
この日、は、着衣のまま2度も水中に落とされ 2度も水中で気絶した。
「あ゛ー・・・づかれたー・・・」
部活が終わり、空が赤く染まってきた頃。
「でもあの練習はすごくいいわ!! 明日もやるわよ!!」
張り切っている織塚に対し、あの後結局チューブ10往復もこなしたため 疲れている部員の方が多い(特に黄瀬)。
「イカマサも安くチューブ手に入れてきてくれてありがと!めずらしくいい仕事したわね」
「へっへっ まかせろい!」
「(でもホントどこで手に入れてきたんだろ・・・?)」
後ろの方でそのやり取りを聞いていたは ぼんやり考えていた。
部活中に服が乾ききらなかったため、制服の下に水着を着るという荒業で下校している。
「あっ、そうだ。 あたし今日自転車で来たのよ ・・・遅刻しそうになって」
「へー・・・めずらしい」
「めずらしいといえば、さんは今日は自転車じゃないんですか?」
生田の指摘にはなんだか嬉しそうだった。
彼女の家は緒ノ島にあり、沖浦・蜷川の家からそう離れてはいないが
[近くてもチャリ(自転車)のが速い!]と、普段から自転車で登下校している。
「うん。なんとなく歩きたい気分だったから歩いてきたー。ヅカセンパイとは正反対の理由で」
「ああそう」
織塚はキレ気味にの口答えに反応すると、ひとり自転車置き場まで歩いていった・・・・・・
が、
「あら、どうしたのかしら?」
なんだか自転車置き場が騒がしい。
その声に沖浦一同水泳部メンバーも彼女についていくと、
「ちょっ・・・なにこれ!? 自転車のチューブが抜かれてるじゃない!!(あたしのやつまで!)」
見渡すと織塚のもの以外にも 大勢・・・ほぼ全員ぶんの自転車のタイヤのチューブが抜かれている。
「チューブ・・・? チューブ・・・ あの、まさか・・・」
嫌な予感がしては碇矢の方を向きながらつぶやいたが、本人はなんだか微笑を浮かべている。
「だれよこんなことしたの・・・!?」
「あー でも練習ははかどったろ?」
「「「・・・・・・」」」「(ああ・・・やっぱり・・・)」
「ホラ 家まで行け・・・っ!!」
「ブッブー・・・」
「あむろものりたーい」
「「「・・・・・・」」」
「(あんなことやってるから番長って呼ばれるの ・・・か?)」
関東大会まであと10日。相変わらずウミショー水泳部はマイペース(?)に練習をこなしていた。
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このマンガ、1話が10ページちょい です。(確か
それで、まぁ静岡さんが胸のところでむちーってやらされてたりあむろが首巻いてたりはカットして
ちょうどいい長さに・・・なりましたかね?
(07.8.31)
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