沖縄から来た転校生が初めて学校に来た日の放課後・・・の水泳部。

なんとなくプールサイドが静かだと思ったら、今日は約1名・・・欠席している。








   ――水泳っぽい100のお題 [098. 一緒に泳ごう]




「沖浦ー! もうひとりのマネージャーはどうしたのよ?」
「え・・・? あれ、今日来てないみたいですね」
アップを終えた織塚がプールの中から沖浦を呼んだ。
水泳部といえば 不真面目さは全部活中トップクラスにはあるが、部員が休むことは滅多にない。

「まさか無断欠席・・・?」
さんに限ってそんなことはないと思いますが・・・ あ、マキオちゃーん!」
沖浦は ようやくビート板でこちらまで帰ってきた生田を呼んだ。
彼女なら 知っているかもしれない・・・と思ったのだろう。

さん、ですか?」
「うん」
「えーっと・・・確か[家の事情で・・・]って言ってたと思いますよ〜」
「「・・・・・・」」
「家の事情 って、どうしたんでしょうね?」
「・・・さぁ・・・」
生田の言葉に 沖浦は織塚の表情をうかがいながら答えた。
サボるときの常套句に聞こえなくもないその理由。


「まぁいいわ・・・ 明日しっかり問い詰めるから」
プールの方に向き直りながら 織塚は再びゴーグルをセットした。
さらりと言っているように聞こえるその言葉だが・・・
「「は・・・はぁ・・・」」
沖浦と生田の脳裏に、[拷問]という単語がなんとなく浮かび上がった。






「っ〜〜〜〜〜・・・」
外観は古い家にしか見えないような診療所の一室から うめき声のようなものが聞こえてくる。
「まだ痛むか・・・ 本当にリハビリしてるのか?」
「だから・・・歩いてる って・・・!」
相当痛むのか 歯を食いしばりながら質問に答えたのは
医者は 患者である彼女の足首をぐりぐり回している。
「・・・まさか自分から 全く動かさないようにとか暗示しちゃいねーだろうな?」
「え・・・」
「去年だったか? おまえさん診たときは・・・疲労を無理してひどくしただけだと思ってたが、意外と長引いてるな?」
「・・・そう、だね」
医者はの足から手を離して 棚に立てかけてある数少ないカルテの束を漁り始めた。
小さい頃から何かと病院沙汰が多かったは 目の前の医者とタメ口で話すほど。
相手も顔なじみなだけあって、患者に全く遠慮していない。
「知ってるか? [病は気から]っつー言葉」
目的のカルテを見つけ、目を通しながらに問いかけた。
「知ってる」
「泳いでる途中で足つったんだったな? ・・・そのときに足使うのやめたんだったな?」
「うん」
「で、1週間前から足が痛かったことは俺にも、部活の仲間にも言わなかったんだったな?」
「うん・・・」
見た目や言動どおり、非常にぶっきらぼうな医者。人によっては[やぶ医者]とも称されるこの男は、
よっぽど付き合いの長い患者に限り 別の一面を見せることもある。
「なんで言わなかった?」
「心配・・・とかかけたく なかったから・・・  ってか!今更そんな昔のこと言われても・・・」
消え入りそうな彼女の声に、医者は更に追い討ちをかける。
カルテから目を離し、と目を合わせた。

「そこで思ったんだが、・・・おまえ そんときのこと、引きずってるだろ?」


「・・・・・・」
は医者から全力で目をそらした。顔には[バレた・・・]と書いてあるように見える。
「昔はそこの海でちょっと足つっただけで[センセェエ!]って泣いて飛び込んで
「それは言うなって!」
今度は恥ずかしさに顔を真っ赤にさせた。学校での部活以上に ころころ表情が変わっている。

「おまえさんのことだから、ちやほやされたくない ってのがあるんだよな」
「うん・・・」
「でも、予想以上に仲間から罵られたんだよな」
「え・・・ そんなこと言ったっけ」
「おまえさんの口からは聞いちゃいねーが、あの日のおまえさんの顔は今でもよく覚えとる」
あの日来たときの 普段とは全然違う足取りと・・・あの顔つき。
[ベストタイムの更新は もうできねぇと思っといた方がいい]と言ったときに一瞬だけ見えた、泣きそうだったあの顔。
1本の松葉杖を抱えながら、[これでもう一方まで使えなくなっちゃったら笑えるね]なんて言ったときの寂しそうな作り笑顔。
「本当に、家族みてぇな付き合いだよな」
「うん、・・・って、いきなりどうしたの?」
「いや、なんでもねぇ ・・・それより、あんときも聞いたが ・・・は、競泳を続けたいのか?」
「きょうえい ・・・ねぇ」
医者はあえて、[泳ぎ続けたいのか]ではなく、[競泳を続けたいのか]を聞いてきた。
その真意に気づいているのかいないのか、は彼女なりに 考えていた。
「数週間後に、三校戦っていう小さい大会がある ってこないだ部長さん(正確には副部長)が言ってた」
「・・・ほう」
「県大会前の非公式戦で、標準記録とかは設けられてないから・・・一応誰でも出れる大会にはなってる」
「・・・それで?」
「競泳は・・・それで最後にしようかな って、思ってる」
「・・・・・・諦めるのか?」
「はい? ・・・そーいうのは諦めるとは言わないよ!」
「あんときは 確か[続けたいけど・・・さ]とか言ってたよな」
「さっすがセンセイ。よく覚えてらっしゃる」
「おれをただのオヤジだと思うな」
「・・・・・・」
「・・・診断結果、言うぞ」
「あ、・・・うん」



「おれには、の足は治せない」


「・・・ほう」
「そこでおれの口真似すんな」
「あぁ、ごめん・・・ なんて答えようかなーと思って」
いつもどおりを取り繕った。もちろんそんなことで医者はだませない。
「自分が自覚しとらんとこで 競泳を拒絶してる以上は な」
「拒絶なんて・・・」
「足が動かないんなら競泳することはできないよな。・・・とやかく言われることもないよな」
「そんなことっ・・・思ってない!!」
「だ か ら 、そこはおれの専門外だって。 どうしても治したければ・・・・・・催眠療法とかそういった方面に行け」
「・・・・・・分かった」
「あなたぁ〜! 次の患者さん、来ましたよー!」
医者の奥さんが 診察室に顔を出しながら叫んだ。
緒ノ島の海辺に建つこの古い診療所には 滅多に患者が来ない。
普通なら 市内の大きな病院に行く人のほうが多いからだ。
「――だそうだ。 まぁ、痛みがひどくなったらまた来いや。・・・痛み止めぐらいだったらできるからよ」
「・・・うん。 センセ、ありがと」
「はいはい、お大事に〜」




診療所から出たは 大きく深呼吸して、うつむいた。
「(なんなんだろ・・・ホント。たったあれだけのことがトラウマにでもなってんのかなぁ・・・)」
気づけば家に着いて、荷物の片付けもそこそこに Tシャツ・短パン(プラス サンダル)のマネージャースタイルに着替えてまた家を出ていた。
そして気づけばいつもあの場所・・・岩陰の浜辺・・・に足を運んでいた。
片足をひきずるように歩くたびに 湿布のような臭いがつんとくる。
・・・本人の希望で 塗り薬による治療をしている。
できるだけ目立たせたくない・・・と思っても さすがにこの臭いだけはどうしようもできなくて、
毎月医者から送られてくる薬も 休日以外に塗ることはない。

いつもどおり岩のがけ下を曲がると、
誰もいな・・・くはなかった。
1隻(?)のイカダが 杭で止めて陸とつなげてある。
しかも バーベキュー用と思われるコンロが外に用意されている。


「(あれ・・・あのイカダ・・・・・・ まさか昨日の!?)」
反射的に岩陰に隠れて考えれば、昨日生田に手を引かれて 織塚・沖浦と行った浜辺で見たあの・・・
「あれ〜?」
「っわ!!?」
真後ろからの声に はびっくりしてしりもちをついてしまった。
「昨日の子だ〜!?」
「あ・・・ど、ども・・・ えっと・・・」
「今日からウミショーに通ってる 2年の蜷川 あむろでーっす! よろしく!!」
「ウミショー1年で水泳部員の でーす・・・ よろしく、です」
蜷川の元気のよさも相まって 少し引き気味の目で彼女を見る
「そいえば そこで何してたの?」
「え・・・あ・・・えーっと・・・」
は立ち上がってしばらく考えたが、本当のことを言ってしまおうかと思い切った。
「実はここ・・・、自分のプライベートビーチ・・・みたいなとこ だった・・・んすよ」
「そーだったのー!? ごめんね〜」
特に悪気もなさそうに えへへと笑う蜷川。
も そんなに気にしてはいない。今度別の場所を探そうか・・・とさえ考え始めている。

「あれ・・・それってもしかして 競泳水着 っすか?」
今更のようにその話題を振る
柄のないスクール水着のような色をした水着。・・・彼女も人のことは言えないが。
「うん!そーだよ〜!」
「転校前まで水泳をやってたとか?」
「ううん。一応海では泳いでたけどねー」
「そう・・・なんすか。 ・・・もしよければ 水泳部、入りませんか?」
「水泳部?」
「はい。・・・ほら、昨日自分以外にも男の人と水着の子と水着破けた人がいたじゃないっすか」
「あー!朝一緒に泳いだ人だね〜!」
「そう!そうっすよ!」
は織塚の水着がサメによって破かれたことを思い出して 少し赤面していた。
「・・・で、蜷川 さんってすっごく速いっすよね。・・・だから、どうかなーって」
「毎日泳げるの?」
「もちろんっす!・・・今日の朝のとおり、頭ぶつけるぐらい狭いかもしれませんが・・・」
「えへへ〜・・・見られちった」
「もしよければ でいいっすよ・・・! きょ、強制とかはしないっす!」
「うーん・・・どーしよっかな〜」
蜷川は首を小さく動かしながら考えている。
「あ、で・・・でも、自分 まだ1年なんで、決定権は全くもってありませんから!」
「じゃー・・・明日!」
「か・・・考えてくださるんすか! 嬉しいっす!!」
「えへへ〜・・・照れるな〜」
「じゃ、じゃあ自分はこれにて・・・」
「あ、うん!ばいばーい!!」
そう言って彼女に背を向けたは 別の浜辺を探しに歩き始めた。
ふと振り向けば、蜷川が水着を脱いでいるところ・・・



「って!!何してんすか!!?
振り向きざまには目をそらしたままダッシュで戻ってきた。
「えー? ・・・こういう時間は誰もいないからハダカで泳ぐの」
「そ・・・そう っすか・・・」
ちゃんも泳ぐ?」
「へ?」
「夕方の海は気持ちいーんだよ〜!」
「あ、じゃ・・・じゃあ・・・」

元々海で泳ぐ前提で は下着代わりに水着を着込んできていた。
更にポケットにはゴーグルまで入っている。服を脱げばすぐにでも泳げる。
「いこ〜!」
「は、はい!」
蜷川に手を引かれて は海に飛び込んだ。



海・・・というか水 は、誰に対しても平等で、
空と同じ様に、どこまでも(とまではいかないけど)・・・つながってる。
そんな大きなモノに包まれると、
自分なんて・・・ましてや、自分の悩みとかなんてすっごく小さくて、気が楽になって、笑える。
だから、
私はこれからも海に行きたいと思ってるし、
・・・泳ぎたい、とも思ってる。

「人魚みたいですね〜!!」
「えへへ〜・・・そうかな?」
果たして彼女が競泳の枠の中で泳ぐかどうかは分からない。
「とおっ!」
「わっ!! ・・・あれ、ゴーグル!?」
「えいっ!」
「わっ!? ・・・やったなー!!」
彼女たちの水遊びは 辺りが暗くなるまで ずっと続いていた。






次の日、部活の際には蜷川と遊んでいたことが発覚(というか蜷川が楽しそうに話)したため、
織塚からの キッツーいお仕置きがなされた・・・とか。










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自己満足の象徴、主人公の過去話。
なんていうか、主人公についても変に伏線とかはっちゃってるから、
単発でいくのは厳しくなってきた・・・かなぁ。



(07.9.15)
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