その日の夕食にて。
例のことを思い切って聞いてみることにした。
「・・・喜助さん」
「何スか、サン?」
「えっと、いきなりですが・・・[生まれ変わり]って本当にあるもの・・・ですか?」
「[生まれ変わり]・・・ッスか?」
「はい」
「そー・・・ッスねぇ・・・ソウル・ソサエティにて死神にならなかった普通の魂魄は、長い年月の末に再び現世におりるッス」

世界には[輪廻の輪]というものがあり、魂魄というものは生の世界と死の世界を循環している・・・というのが基本原理らしい。
つまり、それがあるから 生の世界と死の世界の均衡が保てているらしい。
というか、・・・よほどのことがない限り、[魂魄が消滅する]ことはまずありえない そうだ。
「あなたのように生前の記憶を有し、更に死神などにならなかった魂魄に限り [生まれ変わる]んじゃないんでしょうかねー」

こればかりは喜助さんにも分からなかったらしい。
「え・・・語弊があるかもしれませんが、死神が死んだらどうなるんですか?」
「死神は違うんスよ。・・・ソウル・ソサエティを形づくる糧となります。魂魄として現世に再び戻るかどうかは・・・」
「そうなんですか・・・」

「何か、あったんスか?」
手を合わせ、喜助さんは急須のお茶を茶碗に注いだ。
「昔の、幼なじみによく似た人がクラスに・・・」
「そーッスか。 ・・・まぁ、深く気にしない方がいいと思うッスよ。空似なんて、いくらでもありますから」
「ですよね・・・。やっぱり、そういうものですよね」
私も喜助さんにならって、急須のお茶を茶碗に注いだ。
お茶は飲みやすい温かさになっている。さすがテッサイさん(か、もしくはウルル)。


お茶の温かさが茶碗にも伝わってきた。
もう[寒い]という季節ではないにしろ、やはりこの温かさは なぜか落ち着く・・・。












とりあえず、私たち3人は 学校でよく話す間柄になっていた。
3人でいる時間は楽しくて、休日も一緒に行動することが増えつつある。

そんな、とある休み時間のこと。
「「空手?」」
「そ、今度あたしが行ってるとこで見学会やるから よかったら見においでよ」
初段持ちの達人からの誘いだ。断るわけにはいかない。

「空手、かぁ・・・」
織姫は上を向いて何か考えている。
「空手 って・・・やっぱ 格闘技・・・みたいなもの?」
剣道なら多少乱暴ではあるが日常的にやっている。 ・・・・・・礼儀作法のことを考えると、とてもそんなことはいえない・・・か。
「まぁね。昔は技ひとつひとつの型が重視されてたみたいなんだけど、今はほとんど格闘技みたいな感じ」
「えー?それってプロレスとかみたいな感じ?」
「それは・・・少し 違う、ような」
彼女が想像しているのは少しズレているような気がする。
・・・とはいったものの、私もいまいちピンとこない。・・・死神の戦闘体勢のひとつである[白打]と同じようなものだろうか?
「あっ、かわらとか割るやつ?」
「そう!それそれ」
そう言いながらたつきは 自分がのめりこんでいる(?)スポーツの認知度が低いことに軽く落ち込んでいた。
「たつきちゃん、かわらとか割れるの?」
「さぁ・・・どーかなぁ。まだやったことないし」
「心配しなくても たつきなら簡単に割ってくれる と思う」
「そうなんだ〜」
織姫が目を輝かせた。
「ちょっ・・・!?」
その本人は赤面しながら 机を叩き割りそうな勢いで手を置いた。
「・・・・・・ほら」
「おぉ〜・・・!」
ますます目を輝かせている。 ・・・私も週末が楽しみだ。






風に臨むと書いて、[風臨 (ふうりん) 会館]という道場の前で 私と織姫は合流した。
「意外と近くにあったんだね〜」
「ん・・・」
といわれても、私が今住んでいる浦原商店からでは 少し遠いような気がするが・・・同じ町内なら近いことに変わりはない。
「たつきちゃん、もう中にいるのかな?」
「・・・多分。 ・・・・・・行こう か」
「うん!」
体育館と和風家屋を足して2で割ったような建物の中へ 私たちは足を踏み入れた。


外で素足にサンダル・・・では少し寒かったな・・・と思っていたが、道場の中は決してそんなことはなく、
むしろ熱気に満ちあふれていて 逆に暑いぐらいに感じた。
案内をしてくれたおじさんに言われるまま、私たちは隅の方に正座で座った。
武道には やはりこの緊張感がつきものなわけで・・・ そう思っていると、
「おっす!来てくれたんだね」
ぴしっとした空手着(?)に身をつつんだ本日の主役が歩いてきた。
「「おぉ〜・・・」」
私たちは感嘆の声をもらすことしかできなかった。
普段から凛々しいというかなんというか・・・[気迫に満ちている]、あのたつきが・・・
更に・・・簡単に言えば、[かっこよく] 見えるのだ。

「たつきちゃん、かっこいいよ!」
「なんていうか、 ・・・板に ついてる」
「へへっ、まぁね〜。 ・・・うんと小さい頃から これやってるから」
道場には男性だけでなく女性もちらほら見える。・・・このご時世、護身術のためだろうか?

「おーい、たつきぃ」
彼女の後ろから男子の声が聞こえた。
よく見ると・・・いや、見なくても分かるが あのときの・・・。
「なに?」
「そろそろ始まるぞー! こっちこーい!」
「いまいく〜  ・・・そーゆーわけだから、まぁゆっくりしてってよ」
「うん!」
「分かった」
・・・とても[ゆっくりしていける]雰囲気ではないが、私たちは私たちでゆっくり見ていよう。


見学会には私たちだけでなく、いろいろな年齢層が男女問わずいた。・・・ただし人数はそう多くはない。
中国舞踊?にも見えるような型の連携をしたり、
師範と思しきおじさんが空手のルーツから型からいろいろ説明してくれたり・・・
とにかく見ていて飽きるものではなかった。




「――あ、始まる!」
織姫が目を輝かせながら奥の方を指差した。
周りが騒がしいにもかかわらず、彼ら2人がいる空間だけ・・・全く違った空気が流れていた。
死神たちが言う[霊圧]と、現世の人間が言う[気]とが、もし同じものだといえるのだとしたら、
・・・死神同士の練武を連想させるような、・・・とにかく、そういう錯覚を私は感じていた。

「キミたち、あいつらの友達?」
近くに座っていた空手着の青年が ペットボトルのふたを開けながら声をかけてきた。
彼らの練習風景にはもう慣れているのか、それともあの空気の違いに全く気付いていないのか・・・それは分からないが。
「「はい・・・」」
私だけではなく、織姫の方もあの空気に圧倒されていたようだ。
「すげーよなぁ。あんな若いのにオレたちと違う域に入っちゃってるっていうかさぁ」
「「・・・」」
お互い目を合わせることもなく、私たちは ただただ2人の攻防に目を奪われていた。


ペットボトルに口をつけ、何度かのどを上下させた後で 再び青年が話し始めた。
「一護の方は4歳から、たつきは・・・もっと小さい頃だったかに空手始めてたんだってさ」
「へぇ・・・」
「・・・と、いう と・・・・・・彼らは、幼なじみ ですか?」
「まぁ、そーなるんだろうな」

10年来ずっと組み手をし続けてきたせいか、お互いに攻撃をしても当たる直前によけられてしまっている。
「いつまで続くんかなぁ・・・ 最近一護サボり気味だから、多分たつきのが勝つと思うけ」


ど、 とまで青年が言い切る前に、黒崎の上段回し蹴りが たつきの頭に・・・・・・
当たらなかった。
しかし、ザッ・・・と小さい音が聞こえたので、おそらく頭の防具にはかすめていたと思われる。
この後彼女がどう動くかは分からないが、無論この一撃で保守的になるたつきではない。
むしろ一撃をよける前よりも攻撃の動きが更に速くなっている。
「ムキになっているか・・・?」
「え?」
私の独り言に、織姫が気付いた。
「動き方が、・・・少し 固く・・・なってきてる」
「う〜ん・・・」
よく分からない、というように織姫がつぶやいたが
歯を食いしばるようなたつきの表情はここからでもよく見える。





黒崎の攻撃をギリギリでかわしていたはずが、だんだんかするようになってきていた。
「このままじゃ・・・たつきちゃん負けちゃうよ!」
格闘技の観戦をしているかのように、織姫は自分の両手をぎゅっと握っていた。
「ん・・・」

ほんの一瞬、黒崎が大技を出す為に間を空け・・・・・・
ギリギリの一撃とは逆の足で再び回し蹴りをくりだしてきた。
・・・が、間を空けたおかげで当然たつきには見切られていて、

「はぁぁああああっ!!!」
渾身の一撃と思われる正拳突きを黒崎のみぞおちあたりにめりこませた。
「がっ・・・!!」
勢いに任せるように黒崎は仰向けに飛ばされ、大きな音を立てて畳に叩きつけられた。



「ぉお〜!!!」
「・・・・・・大逆転」
「うん、やっぱオレの予想通りだ」
私たちギャラリーは 拍手をしながら、歩いてくる勝者を待った。


「やっぱ先輩だから、余裕だったろ?」
苦笑しているたつきに、青年は声をかけた。
「ぜんっぜん。・・・は〜・・・、本気で一本とられるかと思った」
「うーん、体格差がこれからますますついてくる年頃だからな、そろそろ・・・」
「まだ負けないよ」
たつきの即答に青年は一瞬驚いた顔をしたが、すぐ微笑に戻った。
「ま、頑張れや。オレ、本気でおまえがバーリトゥード行くって信じてっから」
「うん、ありがと」
立ち上がる青年に にっと笑うと、今度は私たちの方を向いた。

「「すごかった」よ」
私たち2人が口をそろえてしかも全く同じ言葉を言うものだから、たつきは思わず噴き出してしまっていた。
「えー、他に感想はないのかよぉ?」
「・・・ピンチの後にチャンス 、っていう言葉を 思い知った、気がする」
「あはは〜・・・あれねぇ」
「相手の人、大丈夫かなぁ?」
「織姫は優しいなー・・・。大丈夫。もしかしたら骨折ってるかもしんないけど」

「「え・・・?」」


「えっと、念のため言っとくけど・・・・・・冗談、だからね?」
今の試合を見ていた限りでは、とても冗談には聞こえないが。




「あたしも空手やってみた〜い!」
「・・・・・・同じく」

「おっ、そう言ってもらえると嬉しいねぇ〜」


たつきの目論見(?)は見事成功したようだ。
・・・私も今以上に[白打]を鍛えたい。










N E X T