中学生活も折り返しになってきたこの時期に、ソウル・ソサエティの方から一時帰還の命令がきた。
現世に来て実はもう2年半・・・。死んだ人間たちにとってはそう大して長い時間でもないが、
現世はめまぐるしく変化をする。人間にとっての1年はとても大きいことを私も知っている。
下手をしたら1日1日だって長い。今の景色からは想像すらできないかもしれないが、毎日が命がけだった時期がこの国にはある。

「――大丈夫、でしょうか・・・?」
義魂丸(傍から見たらただの飴玉)をおいたちゃぶ台の前に正座しながら、私は喜助さんと向き合っていた。
「大丈夫ッスよ。このアタシが保障するッス」
「でも・・・」
ライトなら大丈夫だとはもちろん思っている。
ライトが失態を犯すなんてことは元から考えてなどいない。
心配なのは・・・人一倍聡い友達たちにバレてしまわないか、ということ。

「なんなら、欠席届でも出すッスか? ・・・この[大事な時期]に」
「あっ・・・そう、かぁ・・・」
2ヶ月に1回ぐらいのペースで襲ってくるテストを前にしたこの一時帰還。
たとえ記憶は全て義骸に戻った際に入っている、としても・・・やはり不安がある。
だがそれを欠席するなど・・・更にできないことだ。
「欠席は・・・しません。義魂丸・・・ライトに、任せようと思います」
「それでいいんスよ。 ・・・虚とかに関しては、アタシたちにお任せください」
「分かり・・・ました」


ここへくるときに導いてくれた地獄蝶も戻ってきてくれたところで、
私(たち)はソウル・ソサエティへの穿開門を開いた。





「やぁ、待っていたヨ」
確か私が開く穿開門は常に十三番隊につながっていたはずなのだが、
・・・景色は確かに十三番隊の穿開門なのだが、待っていたのは十二番隊の隊長だった。
「涅隊長!? ・・・え、なぜ・・・」
「キミをじきじきに迎えに来てやったのだヨ。」
ようするに涅隊長は 我々十三番隊の浮竹隊長の許可を得て十三番隊の穿開門の前で待っていたそうだ。
「ありがとう、ございます・・・」
「さぁ、技術開発局に行くヨ」
「あ・・・はい」
隊の皆様への挨拶はまた後にしよう。この方に逆らうと何をされるか分からない・・・。


到着したのは技術開発局・・・ではなく、練武場のようなだだっ広い空間だった。
「キミのことはしっかり観察していたヨ」
「はぁ・・・」
「そこで、私の斬魄刀と打ち合ってもらいたいんだがネ」
「え・・・?」
「何が言いたいかは・・・分かっているだろうネ?」
「・・・・・・ああ、はい」
どうやら隊長はこの斬魄刀の力を試したいらしい。
「斬魄刀の能力をそのまま使ってしまえるとは・・・興味があるのだヨ」
「分かりました。・・・多分2〜3回くらい打ち合えばもう使えると思いますよ」
「そうかネ! ・・・それは手っ取り早くていいネェ!!」
そういうと隊長は微妙な位置に差している斬魄刀を鞘から抜いた。

「さぁ!来たまえ!! 極力手加減してやるヨ!」
手加減してもらえなかったら私はおそらく現世に帰れないどころか・・・
というかその斬魄刀の差し位置はどうにかならないのか・・・
ツッコみたいことはいろいろあったが、とりあえず私も刀を抜くことにした。
「いきますよ、隊長!」




・・・と、意気込んだものの、結局文字通り[刀を打ち合わせた]だけ・・・というか、
なんというか、ただの[型の確認]で終わった感じだった。

「・・・やれやれ、本当にこんなので私の斬魄刀の能力を発揮してくれるというのかネ?」
斬魄刀を収めながらあきれたように涅隊長はつぶやいた。
そういえば、・・・隊長の斬魄刀の名前を私自身は知らない。


実は[私の]斬魄刀は、解放している状態で打ち合わないと能力が使えない。
だから、唯一コピーできているのが・・・毎日のように練武を積み重ねてきた先輩の[袖白雪]しかない。
・・・・・・

[そんなときに このシニガミサマのとうじょうだぜ]
[・・・・・・嫌、なんだが]
[あのクロツチとやらにやられるのか シンショクされるか・・・きゅうきょくのせんたくだな]
[・・・くっ]


「・・・煌けっ! 疋殺地蔵 (あしそぎじぞう) !!」

前に突き出した斬魄刀は、カタナというより・・・その名のとおり地蔵が真ん中に入った三叉の矛のような感じになった。
こんな斬魄刀だったのか・・・。


「すばらしい!素晴らしいヨ!! 斬魄刀能力をコピーする刀自体はこれまでにも数多にあったが・・・」
こんなにも早い段階で使えるとは思わなかったヨ!! ・・・と、目をぎらぎら輝かせながら叫んでいた。

「姿を真似るぐらい誰でもできる・・・  おい、ネム!」
「・・・・・・はい」
どこからともなく・・・涅隊長の娘である涅副隊長が現れた。
「あれに攻撃するんだヨ」
副隊長を指しながら、隊長は私に話を振った。
「えっ・・・でも・・・」
「ネム! 斬魄刀に突っ込め!!」
「・・・!!」


命令どおり、副隊長は私の斬魄刀に自ら突っ込んできた。
刺さる、というほどでもないが、軽く腕に傷をつけ、・・・副隊長は私とすれ違う形でまっすぐ倒れていった。

「くっ・・・」
「涅副隊長!!?」
「から・・・だがっ・・・」
体が・・・?
[クロツチ マユリのザンパクトウは きったあいてのシシをうごかすしんけいのみをセツダンする]
[四肢を動かす神経のみ・・・? ということは・・・]


嫌な予感が的中した。
隊長が副隊長をげしげしと蹴っている。・・・そのたびに副隊長が小さく悲鳴をあげている。




で、この実験が終わったところで・・・
「キミには興味をもてたヨ。卍解まで見せてもらいたいから、今回のところは解剖はしないでやろう」
「かっ・・・  あ、ありがとうございます」
そういうとあっさり隊長・副隊長は私から背を向けた。
「用はこれで済んだヨ。さっさと失せたまえ」
「は・・・はい、失礼します」





やっと自分の隊舎に戻れると思った頃には・・・ほとんど日が暮れていた。




「お、じゃないか!」
さん、おかえりなさい」
隊舎に入って、数人の同期・同僚さんたちに軽く挨拶を交わし、私は隊首室の前へ向かった。
あのときと同じように、ふすまの前に座り・・・小さく扉を叩く。


「おかえりー。 いいぞ〜、入って」
「あ、失礼・・・します」
隊長以外の霊圧もあった・・・ような気がした。

「「あ」」
予想は大当たり。隊長への挨拶もろくにせず まず目がいったのは、
部屋の隅の腰掛にちょこんと座っている・・・ルキアだった。
「今日あたりにが帰ってくるだろう、って伝えたら・・・昼間っからずっとここに座ってるんだ」
と、浮竹隊長が笑いながら言うと
「たっ・・・隊長!!」
顔を真っ赤にしながらルキアが答えた。
「へー、・・・そうなんですか〜」


「・・・・・・変わったな、
唐突に隊長がほほえましげにつぶやいた。
「え、何が・・・ですか?」
「表情だよ。・・・ここを出るときは滅多に笑わなかったのにな」
「・・・・・・」
そういえば以前の私なら、本当に棒読みでさきほどの一言を言っていただろう。
今ではそこに微笑のようなものが加わっている。

「現世では、いろんなことが・・・ありましたから」


「「・・・そうか」」
隊長とルキアの声が重なったことに また少し微笑。
「まぁ、ここじゃ堅苦しいだろうし・・・挨拶も済んだことだ」
挨拶も全くしてはいないし堅苦しくもないが、隊長は伸びをしながら言った。
どうやら私たちを2人きりにさせたいらしい。
「えーっと・・・」
ルキアと目くばせをし、小さく頷くと・・・
「「では・・・私たちはこれにて、失礼いたします」」




もう薄暗い空の下、特に行くあてもなかったので 私たちは隊舎の屋根に座ることにした。
「現世は・・・どうだ?」
「なんというか、目まぐるしい」
「・・・白玉あんみつは、あるのか?」
「ある。それよりももっと甘いものが現世にはある」
「そうなのか・・・!」
「よっぽどのことがない限り行くことはできないだろうから・・・今度お土産に持ってくる」
「本当か!? ・・・ありがたい!」
と、いう感じでぶつぶつな会話を交わしていた日常。・・・もう2年近く前にもなる。

「――そういえば 死神になって、初めて笑ったのは おまえと会ったときだったな」
急にそんな昔の話を・・・ と思いつつも、
「ん・・・」
いつもどおり、小さく返事をした。
「私も、そうだった」
も、だったのか」
「初めて、誰も知りあいもいない・・・全く知らない世界に入ったときだったから」
「そうか・・・」
「ルキアは・・・入隊の時にはすでに朽木家の貴族、だったか」
「ああ・・・」
こういう話の流れになると、大概彼女は軽くうつむく。
「まずどうして素面でつまづいて転ぶかを知りたいものだ」
「しかも立ち上がろうとしてまたコケたんだったよな」
ちょうどルキアと隊舎の廊下ですれ違ったとき、お互い名前も何も知らなかった頃にも関わらず、
私の二度の失態に 思わず2人で噴き出して・・・廊下のど真ん中で大笑い。
(その後ルキアは元副隊長を慕うようになり、彼の下できっと笑っていたに違いない)



夜もだいぶ更けてきた。
2人でいる時間はあっという間に過ぎていく。

「・・・今回また現世に行ったら、今度はいつ帰ってくるんだ?」
「まだ、分からない。技術開発局に行かないことには・・・」
「そう、か」
「早ければ今回と同じように1年半だと思う。遅ければ・・・2〜3年ぐらいは・・・」
「土産、楽しみに待っているぞ」
「・・・まだ そうすぐに帰るわけじゃないんだけど」
そういうと、私たちはまた小さく笑った。





「明日に備えて・・・そろそろ寝ようか」
「ん・・・」

相手が貴族だろうと、正直私には関係なかった。
ただの偶然に過ぎなかったが、あれだけ暗い顔で歩いていた彼女が
今これだけ笑っていてくれるなら・・・・・・


私は これだけは・・・この偶然だけは、奇跡と信じたい。










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