ただただ白いだけの空間を、私はひたすらに走り続けていた。

振り向いてはいけない気がするが、自分が何から逃げているのかが気になって仕方がない。
・・・と思いつつも、私の中の[何か]が 振り向くなと叫んでいる。
とりあえず逃げ回っていろ、と。そういうことらしい。

[もう あきてきただろ?]
いつもの、あの嫌な声が目の前から聴こえた。
あわてて立ち止まるものの、目の前は なんら変わらぬ白い空間。

[まぁ、おまえがここにいるじてんで ムダなんだけどな]
「・・・え?」
突然後ろから向かってきた殺気に振り向いたが・・・もう遅かった。


見たこともない斬魄刀の数々が 一斉に私の一点を目指してきた・・・!

「っがぁ!!」
今一番ダメージを受けてはいけない、胸の中心あたりを すべての刀が滑るように貫通していった。


「ぁあ・・・っ」
勢いのまま仰向けに倒れこみながら、自分の手が、足が・・・全てが異質の物体へと変化していく様が見て取れた。
「嫌だっ・・・嫌、だっ・・・」



「やめろぉぉぉおおお!!!」





叫ぶ勢いのまま起き上がると、そこは普段となんら変わりのない・・・浦原商店の畳部屋だった。
・・・・・・

「夢、だったのか・・・?」
今見た限りでは 自分自身には寝る前となんら変化はない。
強いて言うなら、汗か何かで全身がびしょぬれになっているだけのことだ。
「あれ・・・」
見ると、自分の右側の すぐつかみやすい位置に、斬魄刀が置いてあった。

義骸姿の今、斬魄刀が置けるわけがない。

枕もとの義魂丸を口に放り込み、死神姿の自分を確かめてみた。
・・・・・・
「うそ、だろ・・・?」
常に腰に差してあるはずの斬魄刀が、ない。
つまり、寝ている間になんらかの出来事があった・・・と見た方がいいのかもしれない。


「ム・・・「どうしたんですか?」」
部屋に入ってきたテッサイさんと、布団にちょこんと座っているライトが 同時に言った。
「い、いや・・・特にどうってことはないのですが、少し悪い夢を見て・・・」
「そうでしたか。朝ごはん、できあがっておりますぞ」
「あ、・・・ありがとうございます」
テッサイさんが部屋から出ていくと、私はひとつ大きくため息をつき ライトに飴の包み紙を促した。




「・・・せっかく新しい制服に袖を通す一番最初の日だってのに、運が悪いっスねぇ」
鯛と思しき魚のおかしらをつつきながら 喜助さんがやれやれとつぶやいた。
どうやら今朝の叫び声は結構大きかったらしい・・・。
「え、あ・・・まぁ、悪運だけはツイてますから」
「――今年1年も、無事に持つといいっスね」
「赤飯を目の前にしていきなり怖いこと言わないで下さいよ・・・  あ、」
「どうしたっスか?」

「豆・・・、割れてる・・・」

「む!? これは申し訳ございません・・・!ささげを使ったはずなのですが・・・」
ジン太のおかわりをよそっていたテッサイさんがあわてて頭を下げた。
「きっ、・・・気にしないでください・・・テッサイさん!い、いつものことなので!!」


「あー、こりゃホントに 幸先いいッスねぇ〜」

「どこがですかっ!」
どうして喜助さんはこうも相変わらず他人事のように言うかなぁ・・・

「・・・あぁ、そういえば」
先ほどとほぼ同じ口調で喜助さんは話を切り替えた。
「来月ぐらいから空座町にまた担当死神が派遣されるらしいっスよ」
「・・・・・・え、それって・・・ワタシ クビ デスカ?」
「話は最後まで聞くものッスよ、サン」
「でも・・・」
ああそうさ。どうせ私には悪運が・・・

「ここへきてようやくというか・・・普通に死神を派遣するのとアナタみたいに住まわせるのと 対照実験をするそうなんスよ」
「え、 あぁ・・・なるほど」
・・・しかし驚かされた。それにしても・・・
この企画が始まってそろそろ3年も経つというのに、なぜ今までおこなわれなかったのだろう?
「で、その死神なんですが――」






「おーっす!!!」
ちゃん、おっはよ〜!」
奇跡の4年連続同じクラスになった たつきと織姫に手を振り返しつつ、クラスの空気が不思議なことに気づいた。
いつの間にか 本当に人間なのか?と疑いたくなるぐらい霊圧が大きくなってしまった黒崎(まだ来ていないようだが同じクラスらしい)、
中学の時は見たことなかったが、普通の人間にしては異様に霊圧(というか霊力)が研ぎ澄まされているメガネの少年、
そして天性(?)の霊圧コントロールと義骸の力とが相まって 普通の人間を装う私・・・
だからおかしいのか。


「黒崎くんとかも 一緒のクラスに・・・なったんだ」
改めてクラス割りのプリントを見ながら私はつぶやいた。
「そーなのよね。巷で有名な一護と茶渡が一緒のクラスになっちゃったもんだから・・・」
と、たつきは小さくため息をついた。
しかし教室を見渡してみてもオレンジ頭も巨人もいない。
「・・・・・・で、その2人が 見当たりませんが?」
「ああ、あいつら今保健室」
「い、いきなり ・・・ケンカ沙汰?」
「そ。校舎前に貼り出されてたクラス割りの掲示板をぶち壊す勢いでね」
やんちゃな子をもって[元気なのはいいけど]と困ったように話す親のような声で彼女は話す。
そういえば中学時代も黒崎の話になると大体こんな口調になっていたような。

「あ、・・・先生来たよ」
ずっと私たちの話を上の空で聞いていた織姫が口を開いたかと思うと、教室の扉が勢いよく開いた。


「よーっし、席着け〜! 入学式の説明とかするぞー」
「・・・あれ?いない奴は・・・・・・うーん、ま、いっか!じゃあまず座席の説明を――」
1年3組の担任としてこれからお世話になる越智先生は なんというか・・・いろんな意味でマイペースな人だった。






その後の放課後の教室はある意味で修羅場だった。

「とりあえず学級委員になった、国枝 鈴。よろしく」
長い黒髪に切れ長の瞳。いかにも頭がよさそうな人。
「小川みちる、です・・・ よろしくね」
頭についてる音符マークのヘアピンですぐに分かりそうな、少し控え目な人。
「夏井真花。まぁ、よろしく〜」
制服の着方がいろんな意味でギリギリな人。いい意味で[見た目どおり]。

と、お互いの自己紹介はここまではよかったのだが・・・
「本庄千鶴で・・・・・・ぁあっ!!」
下縁のメガネの人は、織姫の胸元を見るや 急に顔を赤らめた。
熱い視線を向けられた本人は当然、よくわからないような顔をし、
初対面の私とたつきも [ん?]って感じで、
彼女を知っていると思しき3人は[あーあ]って顔をしている。

「あたし・・・この高校選んで正解だったわ! 直球ど真ん中ストライクぅぅっ!!」
そういいながら彼女は織姫の両手をしっかりつかんでブンブン振っている。

「え、えーっと・・・?」
困ったように たつきが話を振ると、
「実は千鶴・・・――」


真花いわく、千鶴は女だけど 男ではなく女を好きになる・・・性質らしい。
そういう人間もいるのか。あんな死神やこんな死神に比べると大したことではないが。

「しっかし・・・」
顔を赤らめた、というか 興奮しながら千鶴は織姫から一歩離れて今度は私たち2人を見た。
「これだけしっかり脇が固められてると 男は近寄ってこれなさそうねぇ」
織姫の[右腕]がたつきなら、[左腕]はおそらく私だろう。これでもガードはしっかりしているつもりでいる。
「まぁ、ナンパとかは大体あたしたちが追っ払ってるからな」
「ん。 時々、力ずく・・・ ぅがっ!?」
すべて言い切る前に 華奢な腕ががっちりと首を絞めかかってきた。
「それを言うなぁ、それを」
「た、たつき・・・・・・顔が、笑って ない・・・っ」
なだめるような口調で言われても・・・正直、顔が怖い・・・。
そしてその顔のまま 今度は千鶴に向けて
「あんたもあんまり織姫に手出しすると・・・こういう目に遭うわよ?」
「あたしの愛はそんなだけのことじゃ止まらないわ・・・!」
「ぁあ!?」
「なによぉ?」


そこで熱くなるのもいいが・・・・・・いい加減この腕をどうにかしてくれ。さすがに、苦しい・・・っ。




・・・・・・といった感じで、私の高校生活の1年間は9割方決まったようなものだと思う。
残りの1割は・・・今朝喜助さんが言っていた あの死神の件。
まさか前回と同じ こんな短い期間に再び会えるとは思っていなかった。
1か月限りではあるものの、同じ世界で一緒にいられる以上・・・その期間は大切にしたい。










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