空座第一高校の入学式から1ヶ月が経とうとしていたある日の晩のこと。
空間を裂いて現れた虚の脇に 偶然にも2人の死神が同時に斬りかかった。
一人は 少女と称するにふさわしい小柄な体格。もう一人は あまりにも普通すぎて逆に形容しがたいほどの中性的な容姿をしている。
偶然とは思えないタイミングで 同時に虚の腕を吹き飛ばすと、再び2人同時に虚の仮面に斬魄刀を突き刺した。
前者は右手、後者は左手に得物を携えているため 挙動のひとつひとつがまるで鏡を見ているような動きだった。
地面に着地し、2人は再び ほぼ同時に斬魄刀を鞘におさめる。
それまで張りつめていた空気が 嘘のように消え去った。
「久し振りだな、」
前者が顔に合わない古風な口調で挨拶したのに対し、と呼ばれた後者は小さく頷きながら
「ルキアこそ」
と、簡素に返した。
「情報が入ってきてた通り、今日からだったんだな」
「ああ」
3年ほど前から空座町を守護していると、今日から1か月の間という期間限定の担当死神であるルキア。
2人は同じ隊の所属で 実は同期ぐらい・・・更に死神の学校である[統学院]まで同じ学年であったことが最近判明したらしい。
「さて、・・・どうする?」
「何がだ?」
「いや、・・・担当死神が急に2人になったから どうしようかと」
「そうだな・・・」
話を振られたルキアは少し考えてた。
虚が現世に現れると 彼らが持っている伝令神機に連絡が入るようになっているが、
それ以前に彼らほどの実力の持ち主ならモノに頼らなくても自分の感覚で虚の霊圧を感知できる。
仮にも一方の死神が先に向かって もう一方の死神が向かった頃には終わっていた、ということになれば 当然一方は損な結果になる。
「・・・しかし、我々はお互いの霊圧も感知できるだろう?」
別に虚だけでなくとも死神とて、とルキアは言う。
「あ、そっか・・・・・・じゃあ、早い者勝ち ということで」
「それでよかろう」
納得したは うんうんと頷いた。
もともと技術開発局の思惑があってのことだ。この形が一番望ましいだろう。・・・と彼女も思っていた。
――とか言ってしまったが・・・学生の身分というのは意外と自由なようで自由ではないものだ。
私 は 現国の教科書を目で追いつつ遠くの虚と死神の霊圧を感覚で追っていた。
しかし教室を満たしているこの巨大な霊圧が邪魔をして なかなか追い切れない。2つとも かなり小さくなってしまっている。
ルキアのことだから大丈夫だろうとは思うが・・・
・・・・・・駄目だ。完全に見失った。
諦めよう。教科書を真剣に目で追っていこう。
それにしてもこの少年、自称する通り本当に無鉄砲な奴だな・・・
「んじゃーここんとこ読んでもらうかー。・・・・・・!よろしく〜」
「あ、はい・・・」
返事をしながら 立ち上がる。中学時代は立つのが当然だったが・・・今はどうなんだろう。何とも言われない。
・・・お、死神の霊圧だけなんとか分かった。 勝ったか。
「幼少の時分から・・・」
「おいおい、その次からだぞ」
「・・・あれ」
あぁ、木から飛び降りたとこの次か。
恥ずかしくはないにしろ、やはり小さく笑い声が聞こえるわけで。
「どうした?昼間は全くといっていいほど姿を現さないではないか」
あれから数日ほど経ったある日の晩、とうとうルキアに突っ込まれてしまった。
「学生の身分というのは意外と忙しくて」
「そうか・・・は、現世で学校に通っていたのだな」
「ん。空座第一高校・・・統学院よりは楽しい」
「・・・そうか」
「ん、・・・そういえば」
「なんだ?」
これだけは言っておいたほうがいいだろう。黒崎の件だ。
「人間にしてはありえない霊力を持つ子どもがクラスにいる」
先日ルキアが来る前に虚を倒そうとしたとき、明らかに黒崎には・・・何かが見えているようだった。
「・・・どういう ことだ?」
「以前に比べてこの町には虚が増えてきた。霊力を持て余している彼に ・・・もしかしたら原因があるかもしれない」
「・・・・・・」
「その子どもの霊力は異常だ。私の霊的知覚を完全に狂わせている」
「・・・それ程までにすごいのか!?」
「よほど意識を集中させないと 少し離れただけで霊圧が感知できなくなる」
「・・・・・・」
「それに 授業中は伝令神機が鳴らないようにしてあるから・・・余計に出動が遅れる」
「ソウル*キャンディー という手はないのか?」
「ある、けど ・・・自分の周りの友人たちがあまりにも聡いから 最近なかなか使えないでいる」
「類は友を呼ぶ、ではないが・・・おまえの周りは大変なことになっておるな」
ため息をつきながら言うルキアに、私は苦笑するしかなかった。
「オレンジ色の髪をした子どもだ。見れば一発で分かると思うから・・・気をつけるに越したことはない」
「分かった。ありがとう」
そう言いながら、今日のところはこれにて解散。
――最近、本当に虚が多くなってきました。
さんと一緒に飴玉のカタチとして歩いていても分かります。し、
今みたいに、体をお借りしていても・・・
見上げれば、現世には絶対ありえない、もう異形としか言いようのない物体が空を飛んでいるとか・・・
何より怖いのは、[それ]が自分やさんの中で[日常]と化してしまっていることです。
そんなことを考えているうちに、気付けば夕暮れ。いや、もっと暗くなってきてしまいました。
さんがこれだけ長時間、体を空けてどこかに出かけることは非常に珍しいことなのですが、
それ以上に、珍しい光景を発見してしまいました。
「何だァ!?いきなり出てきて山チャン蹴倒しといてその上俺らにココをどけだァ!?」
外灯が点々と点き始めてる小さな公園。
柄の悪い?一言で言えばそういう連中3〜4人に、自分と同じ学校の制服を着たオレンジ頭の男子生徒が囲まれています。
黒崎くん・・・とか、茶渡くん、とかと言えばとりあえず[ケンカ]って単語が真っ先に出てくるわけです。
彼らは別に自分たちから ふっかけるわけではなく、大体は[何かを守る]ために戦い、
そしてその一生懸命な彼らを何も知らない、ただ体裁だけを気にする大人たち(いわゆる先生とか)から叱られる・・・
理不尽でありながらも、これが彼らにとっての[日常]なので、正直それだけならどこも珍しくありません。
ひとつ、珍しいのは・・・黒崎くんの後ろには、頭の半分を血に染めた女の子がいる、ということです。
胸にも鎖がしっかりとついた、いわゆるプラスです。人間で言うと、そのまんま[ユーレイ]というヤツです。
「何考えてんだテメェ? 死ぬか? ・・・あァ!?」
安いケンカの売り文句で脅す男に対して、黒崎くんは眉間のシワもそのままに、頭をぽりぽりかいています。
余裕そうです。
「何とか言えこの・・・ぉプっ!!」
と、迫ってきた男に、・・・顔面に直で蹴りを入れるという。
振りかぶって当てるとかでなく、そのまま普通に[当てる]。非常に理不尽です。
黒崎くんは両手をポケットに入れた状態なので、本当に余裕そうです。
男の仲間たちがざわつく中、黒崎くんは
「オマエら全員、アレ見ろ!!」
仲間のひとりの頭を踏みつけたまま、眉間のシワをさらに寄せて後ろを指差しました。
本当にささやかながら、小さな花瓶が・・・倒れて割れています。
霊媒体質と自称していた黒崎くんのことなので、おそらく後ろの女の子から
[あのうるさい人たちをどうにかして]的なことを頼まれたのでしょう。
正解でした。
最後には女の子が頑張って、一般人にもみえるようにしたため、連中はあわてて逃げていきました。
さて、ちょっと彼らのところへ行ってみましょう。
「悪かったな、こんな風に使って」
「ううん、あの人たち追っ払ってってお願いしたのあたしだもん。このぐらい協力しなきゃ」
「さて、と・・・ ・・・ って! ぇえ!?」
「こんばんは」
振り向いた瞬間のところに立つのがさんの特技だそうです。いやこれ心臓悪い人にはしちゃいけないと思います・・・。
「びび・・・びっくりしたじゃねーか! 人間のクセにユーレイみたいな現れ方しやがって!!」
先程までの威勢が欠片ほどもありません。しかし眉間のシワは相変わらずです。
「おにいちゃん、この人もユーレイなの?」
お嬢さん・・・間違ってはいませんけど・・・一応今は[人間]やってます。
「ちげーよ、俺のクラスメイトだ」
「どうも・・・こんばんは」
女の子は、自分が目を合わせてきたことにびっくりしている様子です。あ、ちょっとこういうの楽しいかも・・・
「こ、こんばんは・・・おねえちゃん、あたしが見えるの?」
「うん、・・・一応」
「っつーか、おめぇ・・・何でここにいんだよ?それもこんな時間によぉ」
午後7時をまわってしまうと、確かに女子高生(自称)の一人歩きは危険かもしれません。
「人を 探してて・・・」
「人?・・・俺が聞いても分かんねぇかもしれねーけど・・・誰を?」
「・・・ユーレイ」
「はぁ!?」
いえ、間違ってはいません。さっきから本当に・・・さんの霊圧すら感じなくなってきてしまいました・・・。
「思い出せない、けど・・・もしかしたら 知ってる人、だったような・・・」
ココは言い訳です。心では苦笑まじりなのに、いざ口に出すと真顔って・・・不思議なものですねぇ。
「っつったって、ユーレイって ひとつところにジッとしてるわけじゃねーよなぁ?」
そういいながら、黒崎くんは女の子の方を向きました。
「うーん、どうやって死んだか・・・にもよるんじゃないかなぁ?」
「・・・あぁ、地縛霊・・・とかいうヤツだったか」
「うん」
「そーか・・・、ちょっと今日は付き合ってやれねーけど、俺でよければまた協力するぜ」
「あ、ありがとう」
そういうと、黒崎くんは自分たち2人に背を向けてしまいました。
「あと、・・・新しい花は近いうちに持ってきてやっから」
「あ、うん!ありがとう・・・おにいちゃん。これで静かに過ごせるよ」
笑顔で女の子が見送ると
「どーいたしまして。早めに成仏しろよ〜」
少しずつ遠くなり始めた黒崎くんが前を向いたまま手を振ってくれました。
「黒崎くん ・・・また明日、学校で!」
「お? ・・・おう!またな!」
一瞬動きが止まったかと思うと、さっきと同じように手を振って歩いていきました。
「――さて、と」
無意識のうちに ふーっとため息が漏れて、気付いたらその場に座ってしまっていました。
「おねえちゃんは? ・・・帰らなくていいの?」
女の子も、ちょこんと横に座ってくれました。あ、ちょっとこういうの嬉しいかも・・・
「ん?うーん、探してる人を見つけないと・・・ちょっと帰る気になれないんだよぉ」
「・・・それって、さっき言ってたユーレイさんのこと?」
「そう・・・だね。あ、お嬢さんは見たかな?こんな顔した、黒い服着たユーレイさんに」
女の子は腕組みをしてまで、深く考えてくれました。いい子です・・・。
「・・・ううん、あたしが見たのはさっきのおにいちゃんとうるさい人たちだけ。おねえちゃんと同じ顔の人は見てないよ」
同じ顔 ・・・って、そこに何も疑問は持たないんでしょうか・・・
「おねえちゃんたちって、双子だったの?」
「え?」
「だって、同じ顔なんだよね! ・・・もうひとりのおねえちゃんは・・・死んじゃったんだ・・・」
あー、そうきちゃいましたか。
「死んじゃった、っていうのかな・・・もうひとりの自分はね、ユーレイさんを天国に連れて行くお仕事をしてるんだ」
「へー・・・すごいね!」
「だから、お嬢さんもきっと・・・黒い服を着たユーレイさんが迎えに来てくれるんだよ」
「そうなんだぁ〜」
「そーいうこと。 ――よし、そろそろ自分も探しに行くとするよ」
「おねえちゃん、ひとりで大丈夫?」
「だっ・・・大丈夫だよぉ。おねえちゃんこう見えても強いんだから」
「・・・じゃあ、気をつけてね。 ・・・それから」
「それから?」
立ち上がったところで振り向くと、女の子も一緒に立ち上がってくれていました。
「お話ししてくれて、ありがとう。楽しかったよ」
「・・・そっか。そう言ってもらえると、おねえちゃんも嬉しいなぁ」
黒崎くんと同じように手を振って帰ってみました。
浦原商店前に戻ってきてみました。
さんの霊圧が全く感じられません。本当に、どこに行ってしまったのでしょう・・・。
――あ。
さっきの、女の子・・・ ・・・ ウソ、だよ・・・ね
誰か、ウソって・・・言ってください・・・ この消え方・・・魂葬じゃないですよ・・・
さん! ・・・早く、戻ってきてください・・・!!
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