悪い夢の続きを見続けているのだと、信じたかった。
しかしこの光景。・・・どうやら知覚(霊覚とでも言うべきか)ははっきりしているため、夢ではなさそうだ。
私自身がつくってしまった、幻なのかもしれない。
だとしたら、さぞかし滑稽なものだ。
幻ならば・・・と思い、あえて隙をつくったら、見事に切り傷の出来上がり。
「どう・・・なっているのだ・・・!!」
[どうもなっちゃぁいないよ]
奴から言わせれば、これは私の霊体への[侵食活動]らしい。気持ちが悪い。
[イイじゃないか。バンカイをつかわせてやろうってんだからよぉ]
それが嫌だから、私はこうして走り続けている。
――何もない、ただ真っ白なこの空間の中を。
こやつが、が言っていた子どものことらしい。
言っていたとおり、オレンジ色の頭をしている。が、
正直これほどまでとは・・・思っていなかった。
今日の私を一言で表すとしたならば、間違いなく[迂闊]である。
今日未明からこの空座町周辺をうろついている[フィッシュボーン]と名前が付けられた虚の足取りをつかむまでに、
これだけの時間がかかってしまった。再び、夜が来てしまったのだ。
私の霊力は、確かにあまり優れたものではない・・・とは思っているが、今日だけは本当に・・・おかしい。
大貴族、朽木家の名に傷をつけるつけない、などといった問題ではない。
こやつの部屋に侵入した瞬間から、これまで以上に私の知覚が狂ってしまっている。
部屋の扉を開くまで、虚の存在に気付けなかった。
ついついあやつの言葉に気を取られ、虚に吹き飛ばされた。
あろうことか、[サシで勝負しやがれ!]などとほざく少年と飛びかかる虚の間に無理に割り込み、
戦闘不能に陥るまでの、傷を負ってしまったのだ。
そして、もう一つ。
今日の私をもう一言で表すとしたならば、[悪運]とも言えよう。
こういうとき、必ず駆けつけてくるはずのが来ない。
それどころか、霊圧すら感じることができない。
は霊圧のコントロールが巧い奴だから、今の私では感じ取れていないだけなのかもしれない。
しかし、はどうなのだろうか?
霊圧の感知ならば、できているに違いない。
頼る・・・という感覚に近いものがあるが、 ・・・何故、来ない?
虚を目の前にしている以上、が現れることを待つことはできない。
すでにこやつの家族は全員、大怪我を負い動ける状態ではない。
虚が再び襲い掛かれば、もう守る術はなくなってしまう。
「・・・家族を、助けたいか?・・・」
「!! あるのか!?助ける方法が!? ・・・教えてくれ!!」
「一つだけ・・・ある。いや、正確には・・・一つしかない、と言うべきか・・・」
いつも以上に体が重い。当然だ。これだけの傷を負ってしまった以上、臥位から座位にうつす程度で精一杯だ。
道の塀にもたれかかり、私は斬魄刀を抜いた。 ・・・おそらく、これしかない。
「貴様が・・・・・・ 死神になるのだ!」
「!! ・・・なっ、何言ってんだ・・・そんなことが・・・」
「できる! ・・・貴様がこの斬魄刀を胸の中心に突き立て・・・そこに私が死神の力の半分を注ぎ込むのだ!」
人間への能力譲渡は重罪とされている。
が、こうすればあやつは助かる。・・・今はそれでいい。
しかし、私の頭には・・・このような状況にも関わらず、仏頂面なの表情がちらついている。
「そうすれば貴様は一時的に死神の力を得、奴とも互角に戦えるはずだ!」
「そんなことして・・・本当に・・・大丈夫なのか・・・?」
「分からん。もちろん貴様の霊的資質の高さを見込んでの計画だが・・・成功率は高くないし・・・失敗すれば死ぬ・・・」
我々死神の存在を見ることができ、自力で鬼道を破る・・・そんな人間なら、失敗はしないだろうとは思うが。
突然、死をつきつけられ、少年は歯を食いしばっている。
「だが他に方法はないのだ!・・・迷っている暇もな」
「――っはあ!!」
長時間水に顔を押し込められていたような感覚だった。
・・・息が苦しい。
浦原商店の自室で、私は・・・ そもそも何故、死神の姿をしているのだろう。
確か・・・魂葬をしに行こうとライトに体を預けて、それから・・・
そうだ。自分の霊力が何もしていないはずなのに急激に高まってしまったために、喜助さんのもとに避難したんだった。
事情を説明したら、私の部屋に行くように促され、・・・すぐ後にテッサイさんが結界を張ってくれたんだった。
「しかし・・・」
これは・・・奴の悪戯の賜物なのだろうか。
「大丈夫・・・ッスか?」
ひょっこりと、喜助さんがこちらをのぞきにきていた。
「はい・・・多分」
「多分、と、いいますと?」
「斬魄刀が・・・ ないんです」
未だに私の息はあがっている。まるで夢だったかのように、遠くの出来事のようにしか今は感じられないが、
また例によって走り回っていたに違いない。
「それは・・・困りましたねぇ」
「はい・・・」
突如、爆発的な霊力が押し寄せてきた。
「・・・い、今のは・・・!?」
さすがの喜助さんも驚きを隠せないでいた。
その霊力の正体は決して私ではない。それに結界も解いてくれたため、直に私たちに来たのだと思われる。
「このチカラ・・・!」
間違いない。あんのオレンジ頭・・・!今度は何をしでかしたんだ・・・!!
「ちょっ・・・サン!?」
きょとんとしたように喜助さんが私を目で追っていたようだが、もう気にしないことにした。
「――!!」
瞬歩で駆けつけた先では、死覇装を着た黒崎が、今まさに虚に斬りかかっていた。
あわてて霊圧を極限まで下げると、・・・その奥に白装束になったルキアを発見。
「ウチの連中に手ぇ上げた罪を・・・思い知れ! サカナ面!!」
サカナ面が 真っ二つになったと同時に、座り込むように刀を振り下ろした黒崎は、そのまま倒れてしまった。
「ルキア! ・・・黒崎・・・!」
「・・・っ!! 遅いぞ!」
「・・・もしかして、ルキア・・・死神のチカラ・・・」
・・・そうだ、と認めてほしくはなかった。
なぜ、こんなことになったのか・・・
しかし、ルキアは小さくうなずいた。
座り込んだまま、今にも気絶してしまうのでは、というほどの傷で。
「私が・・・ あんなことに なっていなければ・・・っ!」
今更こうやって強く拳を握りしめていたところで、何も始まらないが、こうすることしかできない。
「誰も、おまえのことは責めはしない。私の独断でおこなったまでのことだ」
「・・・っ・・・!」
そうなんだけど、そうなんだけど・・・
そんなこと言われたら ・・・余計に・・・辛くなるじゃないか・・・!
「あ、いた ・・・さ〜ん!」
「「!!」」
そんな時に、呑気な声を出しながら、ライトが走ってきた。
「・・・って!ルキアさん!どうしたんですか・・・その格好・・・!」
「こ、これは・・・」
あわてて説明をしようとしたルキアを無視し、ライトは私の方を向いた。
「さんも!探したんですよ・・・! それに、斬魄刀はどうしたんですか!?」
「そ、それは・・・」
どこにもない。どこにもなければ仕方がない。
「だーいじょーぶッスかぁ〜?」
今度はそこへ、喜助さんが歩いてきた。
お得意の下駄の音を小気味よく鳴らしながら。
「貴様・・・我々の姿が見えるのか!」
「あ、ああ・・・ルキア、この人は今私を住まわせてくれてる浦原喜助さん。元死神だそうだ」
「どーも、浦原商店の しがない店長ッス」
「・・・朽木ルキアだ。十三番隊の死神だ」
「どーぞよろしくッス〜 ・・・さて、と。朽木サン、これから・・・どーするッスか?」
「・・・・・・」
この惨状もそうだし、その霊体もそう。何から片付ければいいのやら・・・
「とりあえず、私は記憶置換から始めます」
・・・今は、できることを始めるしかない。
「あ、はいはーい。・・・そこの死神サンには使わなくてイイッスからね〜」
「了解です」
「あ、あの・・・私は・・・」
「今、ちょうどいい義骸があるッスよ」
「ほ、本当か!?」
「ええ。片付けが済んだら、ウチに一緒に行きましょう」
「・・・・・・かたじけない」
こんな傍から見たら得体の知れないおっさんに物を頼むとか、ルキアも複雑かもしれないが、
私は、喜助さんの存在に感謝している。そうでなければ、今のこの状況を・・・どうすることもできなかったかもしれないから。
N E X T