昨晩は、全くといっていいほど眠れなかった。
正直・・・学校にも、行きたくない・・・。
そう思いながら、私の腕は無意識に制服に袖を通している。
隣の部屋では、制服を身にまとい、なんとなく嬉しそうなルキアの声が聞こえる。
しかも少し声が高いし。
「さん、一緒に行きましょ!」
勢いよく障子が開いたかと思うと、この声。この表情。いつもと全然違う。
「えっと・・・誰?」
「だ、誰とは・・・あじゃなくて、・・・誰って、失礼だ・・・ですわね!」
「ごめん。今のは素で出てきた言葉だった」
「・・・一晩で習得したにしては上出来でなくて?」
「相当ぎこちないですが上出来だと思います」
一体どんな本とかから習得したんだろう。喜助さんとかがへんなこと吹き込んでないといいけど。
・・・とりあえず、私さえあんなことになっていなければ、と思うと苦しくて仕方がない。
それどころか、
学校というものに対してこれだけ興味津々で楽しそうにしているなら、それでもいいか・・・
などと、少しでも思ってしまう自分を切り刻んでしまいたいぐらいだ。
学校でいつもつるんでいる、織姫やたつきとは、家が遠いためあまり一緒に登下校することはない。
下校なら、時間が合えばあるかもしれないが、少なくとも登校は大概一人。
しかし今日は違った。
初めて見るであろう自動車に、「あれは、どういった仕組みで走っているのでしょうか?」とか、
商店街のテレビに、「この箱の中は・・・どうなっているのでしょうか?」とか、
・・・お嬢様口調と相まって、いかにも[浮世離れ]した少女が完成している。
そんな感じで、学校にはあっという間に到着し、
ルキアは職員室へ、私は教室へとそれぞれ別れた。
「おーっす、!」
「おっはよ〜、ちゃん!」
「おはよー」
たつきと織姫の、いつもの挨拶。千鶴とかみちるとかも絡んできて、
私にとっての[当たり前の一日]は、こうして普通に始まっていった。
「ちゃん、顔色悪いけど・・・どうしたの?」
目ざとい織姫は、こういうところにすぐ気が付く。
「言われてみれば、確かに・・・」
そしてこういうときは大概、たつきも気が付いている。
「ちょっと・・・ 部屋の掃除にハマっちゃって・・・」
・・・
「おいおい、部屋の掃除で徹夜なんて聞いたことないわよ!」
一瞬の間の後、すぐに周りがどっと笑い出した。
「掃除とは、ハマると怖いものなのです」
「そりゃー、分かるけどさぁ・・・!」
ひとしきり笑ったところで、ちょうど朝のショートのチャイムが鳴った。
「今日はおまえらに、転入生を紹介するぞー!」
ルキア本人の希望(状況を説明できる奴が近くにいたほうがいい)があり、喜助さんの手もあり、
彼女は無事に私たち1年3組のクラスメイトになることができた。
「朽木ルキアと申します。よろしくお願いしますわ」
拍手と同時に、ちょっとしたざわつきが起こった。多分、口調に対するツッコみだろうな・・・
「ルキア、さっきぶり」
「そうですね、さん」
「えー、なになに!?あんたたち知り合いなの?」
このやり取りに真っ先にツッコんできたのは 真花だった。いろんな意味、さすが・・・
「うん、小さい頃、近くに住んでた。今日も、一緒に 学校まで来た」
間違ってはいない。決して間違ってはいないぞ。・・・つい最近までは同業者だったし。
「ってことは、幼馴染の再会ってわけね」
幼馴染ワードに、たつきがうんうんと頷く。
もし小学生とかで離れ離れになって、今ここで一護と再会・・・とかなってたら、あたしどーなってたんだろ ・・・と、
つぶやく声が聞こえたような気がした。
端整な顔立ちであることもあり、男子からもかなり声をかけられていた。
浅野も、その中の一人で ・・・ 小島になだめられて嘆きながらその場を去ったなど、もはや言うまでもない。
2時間目の休み時間になっても、黒崎はまだ来ない。
おそらく昨日の家の片付けが残っているのだろう。・・・あればかりはさすがに修理できない。
記憶置換して、どんな記憶が残っているのやら。
そんな折、窓側に椅子を持ってきて座り込んでいる織姫が 上を向いてボーっとしていた。
お約束ながら、口まで開いている。どうやら、ため息もついていたらしい。
その手には、これまたお約束ながら・・・芸人大図鑑。
「おーい」
まずは私が呼びかけ、
「口あいてるぞ!いい若いモンが、また昼間っからボーっとして!」
喝?を入れるのがたつき。 ・・・この役割はすでに数年前から出来上がっている。
「ちゃん ・・・たつきちゃん」
織姫がそう呟いた瞬間、眠気が催してきたらしい。
「まで欠伸かよ ・・・いつもの覇気はどうした!?」
「いつもそんな覇気なんてないっすよ」
棒読み気味にそう返すと、たつきは小さくため息しながら今度は織姫に向き直った。
こうやってボーっとしているということは。
「遅いね、一護!」
「え?」
「・・・黒崎くんのこと、考えてたんじゃ?」
「ちっ・・・ちがうよ!」
しかし赤らんだ顔は、肯定を示しているに違いない。
「「・・・・・・」」
「ねぇ織姫、あんた一体あれのどこがいいの?無愛想だし、髪は変な色だし、ガキだし、短気だし・・・」
「おいおい、幼馴染ながらまたひどいことを言うなぁ。でも織姫なら、もっとイイ人を狙えるんじゃ・・・」
「おもしろいところ!」
「「へ?」」
たつきも驚いているが、あの黒崎におもしろい要素があったか?
「あたしはあのいつもしかめっつらしてる黒崎くんの顔を思い浮かべるだけで・・・」
しばらくの間の後、
「ププー!! 最高!!」
顔がにやけ、ついには噴き出してしまった。
「「そ、そうかなぁ・・・」」
そう言いながら、私とたつきは呆れながら顔を見合わせた。
未だに井上ブレインにはついていけない・・・。
「今日、休みかもしんないよ・・・一護」
自席から、小島が会話に参加。小島なら、記憶置換の内容を知ってるかも。黒崎と一緒に学校に来てるらしいし。
「どういうこと?」
たつきが説明を求めると、
「うん、今朝も寄ったんだけど、家にでっかい穴が開いててさ、なんか夜中にトラックに突っ込まれたってオジサンが言ってた」
ああ、トラックときたか。しかも何気にルキアがこちらに聞き耳を立ているようだし。
「トラックぅ!? じゃあ何?あいつケガしたの!?それとも死んだ!?」
まくし立てるようにたつきが言った。死んだって・・・まぁ死神様にはなりましたけど。
「死んでねぇし」
突然、肩掛けの四角いバックが、たつきの後頭部に叩きつけられた。
このバック・・・
「ウチの連中は全員無傷だ。残念だったな」
後ろに黒崎が立っていた。バックを叩きつけられたたつきはというと、口をへの字にして頭をさすっている。
「黒崎くん! おっ・・・おおおおはよう!!」
好物を目の前にしたような満面の笑顔(というより照れ顔?)で、織姫が挨拶をした。
「お、おう? 今日も幸せそうだな、井上」
「おはよう、黒崎くん」
「おう」
私には手短に返事。(たつきのは・・・あれが挨拶代わりだったということにしておこう)
「おはよう、一護。 ・・・家の修理、手伝ってたの?」
「おう、まぁな。・・・3限は?」
小島にも返事をし、黒崎は自席に座ろうとした。
「現国」
「越智サンか ・・・あの人ならゴチャゴチャ聞いてこねーからいいや」
そういえば、ルキアの席って確か・・・
「貴様・・・ 貴方が、黒崎くん?」
「・・・・・・」
「よろしく!」
事情を知らない(で、しかも記憶置換をしていない)黒崎は、それはもう冷や汗だらだら。
「あ、彼女今日から来た転入生の朽木さん。さんの幼馴染なんだって・・・って、」
それを聞いてるのか聞いてないのか、あまつさえ「てっ・・・てめぇは・・・」などと彼女に指を差しながら呟いている。
「どうしたの?」
小島が不審がっても仕方がない。うちのクラスメイトとは全員一応[初対面]なのに。・・・私以外は。
「黒崎くん、私まだ教科書とかないの。貴さ・・・あなたのを一緒に見せてもらってもいいかしら?」
素が出てるよ、素が!!
で、手のひらには何か書いてあったらしく、黒崎は一歩後ずさった。
もうすぐ始業のチャイムが鳴るところで、教室の扉からこっそりと黒崎が私を呼んでいた。
「・・・どうしたの?」
「な、なぁ・・・る・・・朽木、っつったか?あの転入生。呼んできてくれねぇか?」
「私が?・・・なんで?」
「アイツ、昨日会ったかもしれねーんだよ、俺 ・・・いきなり呼ぶよりも、幼馴染っつーおまえから言った方のが、いいだろ?」
たつきじゃなくても分かる。・・・彼はかなりうろたえている。
「・・・分かった」
「・・・ルキアー」
「はい、なんでしょうか?」
「黒崎くんが呼んでる」
「黒崎くんが、ですか?」
本人、自覚なしですか・・・
「うん・・・」
周りがざわついているおかげで、小声なら周りには聞こえないだろう・・・
「多分、昨日のあれ絡みかと」
「・・・分かった。奴に着いていけばいいのだな?」
「ん」
うん、やっぱり素のルキアのがいいなぁ・・・
席を立ち上がって歩き出したルキアを見送りつつ、私も霊圧を極限まで抑えて着いていくことにした。
「――どこまで行くつもり?」
さっきから、現世の口調を頑張ろうとしてるルキアにはどうしても笑ってしまう。
それ、現世の言葉だけどそーいうモンじゃないから。
「こんな人気のない所に連れ込むなんて、私何かされるのかしら?」
「そうそう。こんなとこまで来たらホントに何をされることやら」
「「・・・!!?」」
すごい形相で2人が振り向き・・・
「!! なぜここに!?」
「おまっ・・・ なんでこんなとこにいんだよ!?てめぇまで着いてこいとは言ってねぇぞ!」
2人の口が揃った。
「・・・私は、黒崎とルキアに伝えたいことがあって、一緒に着いてきた。黙って来たことは、申し訳ない」
「「伝えたい・・・こと?」」
「黒崎は・・・昨日いろいろあったから、混乱しているかもしれない。なぜルキアがここに、しかも学生として存在しているのか、とか」
「ああ、そうだ。俺はそれを説明してもらうためにここにこいつを連れてきた」
「まず、その答えだが、 ・・・私は死神のチカラを失ってしまった」
目配せをしたところで、まずルキアが答えた。
「なっ ・・・で、でも俺はもう死神じゃねえぞ?・・・どこに行ったんだ、そのチカラは!?」
「チカラは肉体ではなく、魂に宿る」
再び目配せをし、今度は私が回答。
「だから、肉体と魂を引き離せば、黒崎はまた黒い着物姿になる」
「・・・・・・」
「私に残っているのはわずかな鬼道を使うのみ・・・」
ルキアがそうつぶやくと・・・
「ん、ちょっと待てよ」
ようやくそこで黒崎が制止した。
「なぁ、えっと・・・名前なんつったっけ・・・」
「・・・です」
「そうそう、だ ・・・おまえ、なんでそんなに詳しいんだ?」
「言ったはず。 ・・・私はルキアと幼馴染」
「・・・!! まさか・・・」
口で言うより見せた方が早い、そういうわけで、いつもの飴玉を口に含めて飲み込んだ。
「私も死神でした ・・・なんて言ったら、余計に驚くだろうけど」
「・・・・・・」
文字通り、黒崎は絶句していた。
「この町に来た3年前から、ずっと人間のフリ・・・いや、私は人間として生きてきていた」
「それで・・・ユーレイが見えたってわけか・・・」
「そういうこと」
「・・・・・・ん、 ・・・なぁ、」
「ん?」
「貴様、斬魄刀はどうした?」
「ホントだ・・・死神なら、虚を退治するために、みんな持ってるモンなんだろ?」
「・・・・・・なくしてしまった」
「「はぁ!?」」
「詳しいことは・・・まだ説明できない。しかし、今は斬魄刀を使うことができない。ルキアとほぼ同じ状態だ」
「「・・・・・・」」
「いや、鬼道も大して使えないから・・・本当に無能かもしれない。空手やって白打でも鍛えようか・・・」
「きどう?はくだ? ・・・なんだよ、それ?」
少しの間をおいて、黒崎がつぶやいた。頭の上にはいくつもハテナが飛んでいるに違いない。
「死神の戦術だ」
ルキアがそう言うと、黒崎の眉間のシワが少しゆるんだように見えた。
「簡単に言うと、刀を使う剣術に、瞬間移動的な歩法、直接こぶしとかで攻撃する白打、あと魔法みたいのが鬼道」
これこそ現世の人間にとってはテレビゲームとかの世界に似たようなモノがあるんだろうな・・・。
「・・・・・・なんとなく、分かった気がするぜ」
「今はそれで良いと思う。これから、使えるようになっていけばそれで」
「・・・これから・・・?」
ピシッと、急に空気が張り詰めたような気がした。
「そうだ。我々が死神としてのチカラを使えない以上、死神となった貴様が虚と戦うのだ」
「・・・・・・!!」
「もちろん、黒崎がうまく虚を倒していけるようにバックアップはしていく」
「けっ ・・・けど、またあんなバケモノと戦わなきゃいけねーのかよ!」
「「・・・・・・」」
こう見えても彼はひとりの人間。確かに突然目の前に現れた虚を恐れるのは仕方がない。
「昨日は家族がいたから・・・できたけどよぉ・・・」
弱音を吐く黒崎を前に、非情にもルキアの伝令神機が虚の出現予告を伝えた。
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