「・・・・・・そうか」
そう言ってみたものの、彼には[死神の仕事]をしてもらわなければならない。
霊力のない死神と、斬魄刀のない死神では、たとえ霊力が弱い虚だったとしても・・・倒せる自信はない。
ルキアと目を合わせた。
・・・どうやら、考えていることは同じようだ。
「ならば致し方ない!」
ルキアがそう言うと、ポケットからさっと取り出したグローブで一護の顎に掌底をくらわせた。
意図も簡単に肉体と魂が分離されたことで、
「おわぁ!?何だこりゃ!?魂が抜けてやがる!!」
「っていうかおい!しっかりしろ!俺の本体!!」
と一護が一人で騒いでいた。
「ついて来い」
険しい表情で言うルキアに、一護は目を背けつつも立ち上がった。
「私は・・・」
どうすればいい、と聞きかけたところで、
「一護の肉体と我々の言い訳を頼む」
と、先ほどと全く変わらない表情でルキアが言った。
本気、だな・・・
「って、引き受けられて・・・イイ案でもあるんですか?」
倒れたまま空気と化していたライトがむくりと起き上がった。
「考え中・・・というより、お前ずっと倒れていたのか?」
「そうですよ。魂が抜けたはずの体が急に起き上がってきたら、黒崎くん卒倒しちゃいますよ」
「・・・彼の神経はそこまで繊細ではないと思うが」
「と に か くっ! 今は黒崎くんの体をどうにかすることと、ルキアさんと合わせて言い訳を考えるんです!」
「・・・・・・」
確か・・・この義骸と義魂丸をもらったとき、喜助さんからは
「義骸を媒介として義魂丸が性格をコピーする」とかいうようなことを聞いた気がする。
しかし目の前にいる自分と同じ顔をした肉体からにじみ出る・・・オーラ?そういうモノは
魂そのものである私自身とは対極といっていいほど違っているように見える。
「黒崎の肉体は、とりあえず保健室に連れていくとして・・・ルキアは・・・」
「家庭の事情で急用があって早退しました、ってことでイイと思いますよ」
「ん。そうしよう・・・確か今日の授業は午前中だけだったはずだ」
「・・・さん、・・・ルキアさんたちのところへ行ってください」
ライトにそう言われたが、なんとなく後ろめたさを感じた。
踏みとどまっている私の心情を知ってか知らずか、ライトは独り言のようにつぶやき始めた。
「黒崎くんは、死神の仕事っていう現実離れしたような現実と今闘っています」
「・・・・・・」
「ルキアさんは、死神のチカラを失ってもなお 彼を借りて仕事を続けるべく闘っています」
そう強く言う片割れが、今はとてもまぶしかった。
「私は・・・」
「もちろん、さんも・・・今まさに魂の中での戦いが繰り広げられているかもしれません」
目を閉じると必ず出てくる白一色の人型の物体。
昨日、あいつさえ出てこなければ・・・こんなことには絶対にならなかった。
「過ぎたことは仕方がないんです。たとえ高度な鬼道があったとしても、私たちは過去には戻れません」
そんなことは、分かっている。 ・・・・・・ただし、頭では。
「今は、こうなった現実に対して何ができるかを考えて、闘っていかなければなりません」
「それは・・・」
「つまり、ルキアさんたちの戦いを見届けることが、あなたにとっての闘い・・・なんだと思いますよ」
なんで・・・
なんで、コピーされた性格であるはずのライトは・・・あれほどまでに前向きなことが言えるのだろう。
霊力で宙につくった足場を蹴りつつ、私は目元をこすりながら彼らのもとへと向かった。
「だから、この場のことは私に任せて・・・さんは行ってください」
つい今しがたの片割れの笑顔が脳裏に浮かぶ。・・・私は、あんな顔で笑ったことがあっただろうか。
「――確かに、覚悟はしてねぇ。ホントにヤバくなったら逃げ出すかもしれねぇ・・・」
黒崎の霊力をたどるのは簡単だった。
着いた頃には、ちょうど虚が霧散し始めているところで、それを見届けつつ黒崎が話していた。
ルキアの言葉に対する答え、なのかもしれない。
「俺は赤の他人のために命を捨てるなんて約束ができるほど、立派な人間じゃねぇからな・・・」
背中の巨大な鞘へ同じく巨大な斬魄刀を収めつつ、黒崎は続ける。
「けど、残念なことに・・・受けた恩を忘れてヘラヘラしてられるほど、クズでもねぇんだよ!!」
そう言うと、くるっと向きをかえ、ルキアに右手を差し出した。
「手伝わせてもらうぜ!・・・死神の仕事ってやつを!」
いつものしかめっ面を更にしかめているところがいかにも黒崎らしく見えた。
ふっと穏やかな表情に戻ったルキアも、
「ああ、よろしくな」
と、黒崎の手を握り返した。
見なかったことにすることはできる。
自分から何かに関わりをもたないように生きていくことは得意だから。
でも、
今逃げたら・・・ずっと昨日のことを後悔するに違いない。
「・・・・・・私も・・・」
驚いたように黒崎とルキアがこちらを振り向いたこと以上に、
言葉を続けることに緊張している自分がいる・・・
「この先、どうなるか・・・自分の身に何が起こるかは分からないが・・・」
ひどく、か細い声だと思った。
「できる精一杯、いや、それ以上に ・・・・・・一緒に、戦っていきたい!!」
「・・・・・・その言葉、待っていたぞ」
ルキアが歩み寄り、手を差し伸べてくれた。
緊張と恥ずかしさと情けなさのあまりに面を上げることができないまま、
差し出された手を握り返した。
「・・・俺やルキアに、もしものことがあったら、・・・頼むぜ」
しかめっ面のまま、黒崎も手を差し出してくれた。
彼の手は私のそれなんかよりもずっと大きく、そして温かかった・・・・・・
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