ここ2日ほど眠れなかった疲れが出たせいか、
今日、この日曜日は気付いたら正午になる前あたりまで眠っていたらしい。

[白き死神]が出てこなかった、というのも珍しい。



居間でほぼ昼食とも言える食事に手をつけているときに、
「いやぁ、ついにくたばったかと思ってびっくりしたッスよ」
と喜助さんが飄々 (ひょうひょう) と言いのけたぐらいである。
・・・自分でも今驚いているぐらいだから、言い返す言葉もない・・・。
霊圧で絶対に分かるであろう喜助さんでも、冗談でこう言うのだ。

よほど、熟睡だったらしい。




外出するかは分からないがせめて着替えよう、と自室に戻ると
伝令神機に着信が入った。
現世にて[ケータイ]としても使えるように改造したそれは、
虚の発生ではなく、人間からの電話であることを知らせるように一生懸命に震えていた。




「――織姫が・・・・・・事故った?」


挨拶代わりに[織姫が車にひかれたって]という、たつきのあっさりした声。

「・・・今年入って、もう何回目・・・?」
「今月だけでもう2回目じゃないかな。先月は週1ペースでなんかやらかしてたし」

自分でも[ドジっ子]宣言をしているくらいの織姫のことである。
世間では[交通事故に遭う確率は宝くじの当選より低い]と言われているらしいが、
彼女の場合、宝くじの当選よりも事故に遭う確率の方が明らかに高い。
最初の方こそは、聞くたびに驚いて、たつきと2人で家に駆けつけたぐらいだったが、
本人はけろっとしているし外傷もほとんどと言えるくらいにないことの方が多かった。

それだけ頑丈な体をしているということだ・・・・・・と私たちの間では結論づけて、
最近ではこうして私たちの間だけで情報交換をしあっているくらいである。


「だけど、ちょっと心配なのが・・・今回の事故はちょっとケガが多いらしいのよね」
「まさか・・・入院・・・とか?」
「ううん、そこまでひどくはないって。でも・・・」
「・・・でも?」
心配しているのか、それともなにかあるのか、・・・言葉に含みが多い。

「左腕には包帯を巻いてて、左足には変な大きなアザができたんだって・・・」

「アザ・・・」
・・・もし赤く腫れてるようだったら、骨折のおそれも否定できないが。
それ以前に、虚につかまれた痕なのでは、とも思ったが・・・それも否定はできない。

「もし骨折しててあの子気付かずに歩いてたら・・・それこそヤバいわ」
「それ、充分にあり得そうな気がして・・・怖い」
「今すぐにでも見に行きたいんだけど、あたしこれから部活があるからなぁ・・・」
部活・・・空手部か。そういえば入ろうかどうしようか悩んでいたところだった。
「あ、ねぇ・・・ 途中からの入部って、できる もの?」
「ん?うん・・・うちの顧問に書類出せばいいと思うよ。え、入ってくれるの!?」
「・・・考えてるところ」
「じゃあ入りなよ! ・・・今、1年生少なくて募集かけてるからさ!」
「ありがと・・・週明けにも、申請してみる」
「やった!これからもよろしくね、!」
「うん」



「――で、話を戻すけど」
「あ、うん」
織姫の事故の話からすっかり空手部の話になってしまっていた。
「あたしはそーいうわけだからそろそろ学校に行かないといけないわけよ」
多分この話の流れでいくと、私が織姫の様子を見に行けるかどうか、という話になりそうだ・・・
「・・・この後、暇だから 織姫んちまで 行ってみる」
「ホント? あたしも夜に織姫んちに泊まりに行こうかって思ってたとこ」

泊まり・・・か。これまでにも何度か行ったことはあるが、今回は少し事情が違う。
自分一人では霊的な[万が一]に対処できない。現在フルに死神のチカラを発揮できるのが黒崎しかいない今、
彼・・・と彼の監視役(?)であるルキアと共に行動をしなければならない。
私はいてもいなくても変わらないであろうことは私が一番よく分かっているが、
私は彼らの[戦い]を見届ける覚悟を決めた。もう他人事でいたくはない。


「泊まり・・・は今回、厳しいかも だけど・・・とりあえず、行ってみる」
「ん、了解。あたしが泊まりに行くことはもう伝えてあるからさ」
「・・・了解」
「そんじゃ、部活行ってくるわ。また会えたら夜にね!」
「ん、 ・・・行ってらっしゃい」






結局その後も眠気に耐えられず、布団でまどろんでいたら
昼下がりもいいところ、・・・もう夕方とも言える時間となってしまった。

慌てて運動靴に足を突っ込み 織姫の家まで走った。



もうすぐ着く、というところの公園から なにか臭う。

「ぇっくしゅん!」
強烈なコショウに思わずくしゃみ。
どこにそんなコショウ使う飲食店があるんだ・・・と思ったら、
ここから見下ろすあたりに位置する公園にて、黒崎が一生懸命バットを振り回している。
バッティングマシーンから吐き出されるボールを彼が叩くたびに、辺りに茶色い粉が舞う。
その近くのベンチでは、何かを熟読しているルキアの姿もあった。

・・・コショウボールのノック?まさか虚との戦いに備えた特訓、とか言わない・・・よな?



これは話しかけていいのかどうか迷いつつ、様子を見ていると
黒崎はノックを終わらせてサボって・・・いや、現代語の勉強を必死でしている監督と
ぎゃーぎゃーいい合っているところが手に取るように分かった。
どうやら本当に[特訓]だったらしい。

そういえば・・・昨日の夕食から浦原商店に帰ってこなかったが、
ルキアはどこで生活しているのだろう・・・


「あれ、ちゃん?」
その様子を見て楽しんでいた(?)私の後ろから、織姫が声をかけてきた。
普通の人間のいわゆる[気配]というヤツで分かったが、
さすがに振り向くまでは、買い物袋を提げているということには気づかなかった。
「おー ・・・ケガは、大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫だよ」
「・・・足に大きなアザが、ある とかって ・・・」
「うん?これのこと?」
ワンピース姿の織姫がくるっと後ろを向く。
・・・見方によっては、大きな手につかまれたような形とも言えそうなアザからは、・・・・・・やはり。
「・・・骨折、じゃないか」
「すごい、よく分かったね!お医者さんにも[骨折してるんじゃないか]って検査されたんだよ」
「ん ・・・でも、すごく 痛そう」
「・・・実はこっちの包帯より痛いんだよね・・・ちゃん、すごいね!」
「・・・そ、そう・・・かな。あ、・・・買い物してきた んだ」
「うん、今日の夕飯!ネギとバターとバナナとようかんを買ったの!」
・・・何を、作る気なのだろう。もはやツッコんではいけない気がするが。

「えっと、晩ご飯・・・ご一緒しても いい?」
そうだ。[万が一]を考えてせめて日付が変わる前ぐらいまでは一緒にいよう。
人間が思う[幽霊]とは違って、虚は24時間いつでも活動している。
「うん、じゃあたつきちゃんと3人だね!」
「・・・急なこと言ったけど、大丈夫?」
「全然大丈夫っすよ〜。たつきちゃんに電話したときに、ちゃんも来るといいなーって思ってたもん」
「そっか・・・ありがと」


「ところで、ちゃんは何してたの?」
「ん、あれ」
そう言って私が低い土地にある公園のベンチを指すと、
今度はルキアがテーブルにあぐらをかいて座り(ワンピースなのに・・・)、
黒崎がベンチに座ってなにやら真剣そうな顔をしている。

「あ・・・黒崎くんだ!」

そう言うと、織姫は 例の左足をかばうように
ひょこひょこと階段を下っていった。とても器用な歩き方だが、
転ばない・・・・・・なんて保障は絶対できない子だということは百も承知しているため、
慌てて私も織姫と横に並ぶように追いかけた。

「せーの・・・」
「・・・え、私も言うの?」
「うん、言ってね!」
「あ、はい ・・・」
「せーの・・・」
これだけ彼らの後ろでしゃべっているのに2人とも気付かないのがまたおかしい。
だがせっかく驚かすのなら、気づいてない方が上等である。

「「こんにちは黒崎くん!!!」」
「うわあ!!?」
驚かすのは成功。見事に黒崎はベンチから転げ落ちた。

「井上・・・それに、てめぇか!! ・・・えーっと・・・」
ですよ」
「あ、ああ ・・・な、悪ぃ悪ぃ」
イイカゲン名前を覚えていただけないものか・・・


その後は黒崎も 私と同じように買い物に対してツッコみ・・・かけて、
織姫はルキアを発見したときは、
一瞬素が出たものの ルキアは世間離れな挨拶でその場をやり過ごし、
織姫の傷の話になったとき、・・・ルキアはかなり険しい表情になっていた。

「・・・・・・朽木さん?どうしたの?怖い顔して・・・」
「え?あ、いや・・・痛そうだな、と思って・・・」
ごまかしながら笑いつつも、ルキアも私と同じことを言った。
多分、虚という点については同じことを考えていると思われる。
「2人ともホントすごいよ!よくわかるね!!」
「・・・二人とも?」
鋭くルキアが突っ込んだ。
「うん、ちゃんも 同じこと言ってたよ」
「そうですのぉ」
大げさに言うルキアと目が合った。・・・やっぱり虚絡みらしい。

「・・・ってお前それマヒしてんじゃねーのか!?医者行けよ医者!!」
傷自体はどーでもいいからとっとと治してこい、という感じで ぶっきらぼうに医者の息子は言った。
「え? ・・・えーっと・・・・・・」
「なんでソコで照れる?」
医者イコール黒崎の家、という意味で照れているのだ・・・分かってやれ黒崎。

「あっ、もうこんな時間!」
織姫が腕時計を見て驚くと同時に、公園内の時計を見上げた。
・・・もうすぐ5時。夕暮れに徐々に近づきつつある時間。
しかも今日は日曜日 ・・・と、いうことは・・・
「あぁ、もうすぐ・・・笑点の時間 だね」
「そーなんです!早く帰らなきゃ!」
そう言いながらひょこひょこと階段を上っていく織姫を追いかけようとしたところで、
誰かに服をつままれた。・・・黒崎は私の視界の範囲内にいるため、相手は当然ルキアである。
おそらく、話したいことでも・・・あるのだろう。
「・・・大変そうだなー!送ってってやろうかー?」
一生懸命階段を上っていく織姫の背中に向けて黒崎が声をかけた。
「え・・・ぇええ!? い、いいよそんな!!」
振り向いた織姫の顔は真っ赤。かなり動揺しているが、動揺のあまりに断ってしまった。
「そうかー!んじゃー明日なー!」
「え? えと ・・・・・・うん!明日ね! ・・・って、ちゃんは!?」
「あー、先行っててー! ・・・ルキア、ちょっと待っててもらっても いい?」
「え、 ・・・あ、ああ。だが奴を送り終えたら戻ってこい。いいな?」
多分この距離だと織姫には聞こえていない。最初の[先行っててー!]ぐらいしか。
「・・・了解。んじゃ、また後で」
「ああ」
地面をえぐる勢いで私は織姫の背中を追いかけに走った。










N E X T